瀬戸康史の“沼る魅力”とは? 夢中になる視聴者が続出するワケ。俳優としての唯一無二の強みを徹底解説
ドラマ『くるり』で光る新たな王子様像
どの作品の瀬戸康史も、視覚情報では確実に「これは瀬戸康史だ」と認識できる。しかし、10秒後には画面の前にいる人物が瀬戸康史だと認識できなくなってしまう。しかし、瀬戸康史が演じたどの役も、絶対に瀬戸康史でなければ成立しない。 具体例を挙げよう。先月まで放送されていたドラマ『くるり~誰が私と恋をした?~』(TBS系、2024)を思い出してもらいたい。 記憶を失った主人公・まこと(生見愛瑠)の前に自称「元カレ」の公太郎(瀬戸康史)、自称「1番の男友だち」の朝日(神尾楓珠)、自称「一目惚れした運命の相手」(宮世琉弥)の3人が現れる。果たして誰が本当の運命の相手なのか? 恋の四角関係の行方は? という新感覚ラブコメミステリーだ。 少しドラマに詳しい人間であれば、誰がどう考えてもまことが選ぶのは公太郎だと分かる。それほどまで完璧な王子様役を瀬戸康史は演じてきた。 だが、ここに「瀬戸康史」という属性が乗ってくる。仮に公太郎を演じたのが瀬戸康史以外の俳優であれば、ミステリーの要素は限りなく薄くなる。 しかし、瀬戸康史はこれまで過去ドラマで本命に好きな人を奪われる負けポジション、いわゆる「当て馬」を演じ続けてきた当て馬のプロフェッショナル、プロアテウマーだ。幼なじみ、長年付き合ってきた彼氏、婚約者、どれだけ有利な状況であろうが、一瞬で関係性を覆される。恋愛ドラマとは瀬戸康史の涙を見るためだけに存在する、と言っても過言ではない。
視聴者を揺さぶる、瀬戸康史の魔力
『くるり』でもそうだった。自称「元カレ」という圧倒的アドバンテージを得ているが、我々視聴者はいっさい安心することができない。 どれだけ物語が公太郎に有利に働いても、まことが公太郎にキュンときても、ここから裏切られるのでは…?プロポーズ断られるのでは…? という不安が最終回ラスト1秒まで拭うことができない。このドラマウォッチャーだからこそ起こりうる「脳みそのバグ」によって『くるり』は極上のミステリーへと仕上がっていたのだ。この感覚は、瀬戸康史の演技を見ることでしか味わうことができない。 だが、実は出演作品数と比較すると決して瀬戸康史の「当て馬率」はそれほど多くはないのをご存知だろうか。 筆者が以前調べた研究によると、これまで瀬戸康史が出演してきた恋愛要素のある作品において瀬戸康史が当て馬を演じたのは29作品中たったの「5」。(『アタシんちの男子』『マザー・ゲーム~彼女たちの階級~』『私結婚できないんじゃなくて、しないんです』『パーフェクトワールド』『私の家政婦ナギサさん』)ほとんどの作品では瀬戸康史は何かしらのハッピーエンドを迎えているのだ。 そう、これこそが瀬戸康史の恐ろしさ。演じた役それぞれのインパクトがあまりにも強すぎるゆえに私は「瀬戸康史は当て馬」だと錯覚していたのだ。私とは逆に、瀬戸康史のことを本命のプロフェッショナル、プロホンメイーと評する人間も大勢いるだろう。これが前述した「見る人間によって瀬戸康史は自由に形を変える」ということなのだ。 瀬戸康史を一度知ってしまうと、二度と抜け出すことはできない。その底知れぬ魅力に恐怖すら感じてしまう。だが、私はこれからも瀬戸康史を見続けたい。瀬戸康史 ああ瀬戸康史 瀬戸康史。 【著者プロフィール:かんそう】 2014年から、はてなブログにてカルチャーブログ「kansou」を運営。記事数は1000超、累計5000万アクセス。読者登録数は全はてなブログ内で6位の多さを誇る。クイック・ジャパン ウェブ、リアルサウンド テックなどの媒体でライター活動を行うほか、TBSラジオで初の冠番組『かんそうの感想フリースタイル』のパーソナリティも務め、2024年5月に初書籍『書けないんじゃない、考えてないだけ。』を出版した。
かんそう