ハイパワーから低燃費へ 新旧ターボエンジンは何が違う?
小排気量ターボ×多段化ミッション
ただし、やはり低速を犠牲にしないで高速までハイパワーという理想的な形にはいま一つ届かなかった。そういう欠点を新型変速機「DCT」で上手にカバーすることでゴルフTSIは成功を収めた。 このEA111型エンジンは、のちにスーパーチャージャーなしのシングルターボモデルが追加された。それはつまりトランスミッションを多段化してエンジンのいいところを上手に引き出せば、全域で必ずしも高性能でなくても過給ユニットは成立することがはっきりしたからだ。 こうして小排気量ターボは低速型ターボとして勢力を伸ばしていく。それは多段化されて市街地から高速道路まで低い回転数を積極的に使えるトランスミッションがあればこそだ。 ハイパワーからスタートして低速をカバーしようとしたかつてのターボと、低速からスタートして高速をカバーしようとする現在の小排気量ターボは技術としてはかなり相似形な部分が多いが、その設計と運用思想に大きな隔たりがある。 先月、トヨタは新型オーリスに小排気量ターボユニットをラインナップした。筆者はこれを喜ばしく思っている。別に小排気量ターボが最高だからではない。そういう広がりが必要だと思うからだ。
ユーザーとしてどう選ぶか
さて、少々難しかったかもしれないが技術の話はし終えた。あとはそれをユーザーがどうするかだ。ごく単純化すれば、ストップ&ゴーの多い市街地をよく走るならハイブリッドの方が良い。そして流れの良い郊外のバイパスや、高速道路を走る機会が多いなら小排気量ターボが合っている。 小排気量ターボの話をしていて難しいところは、様々な工夫を凝らして作られているにも関わらず、それが驚きや喜びには繋がらないことだ。野蛮で、原始的で、大食らいで、運転しにくかった昔のターボには確かにそれがあった。 知人友人が買いたいと言っても、筆者はきっと止めない。だが「お前いつまでもそんなクルマ乗っている場合じゃない、今すぐ小排気量ターボに買い換えろ」という気持ちには絶対にならない。 全くの観念論になってしまうかもしれないが、自分が痛まない範囲で環境対策も多少は参加していますという極めて現実的な正義感で選ぶクルマだと思う。そこには欲しくてたまらないときめきもないが、正義のために身を切るほどの苦労もない。社会のために簡単にできること。現実的過ぎてそっけないサステイナブル社会のあり方がそこに見える気がする。 (池田直渡・モータージャーナル)