ハイパワーから低燃費へ 新旧ターボエンジンは何が違う?
新しい時代のターボとは?
1980年代、ことターボに関する限り、日本のメーカーは明らかに世界に先行していたが、結果的に未成熟の技術に触れたユーザーに「ターボ=大食らい」というイメージを強く焼き付けて、技術がほぼ途絶えてしまった。 ところが欧州では省エネルギーや低CO2への要請からクルマの燃費向上にターボを使うメーカーが出てきた。最初の動きはサーブやボルボが先鞭を付けた低圧ターボだ。この低圧ターボは、高速側でのハイパワーを諦め、低速でのトルクアップに特化したものだ。径の小さなターボによりレスポンスを上げ、エンジントータルで低速型のセッティングにした。この低圧ターボの考え方は大きなターニングポイントになった。 良くも悪くもスポーツイメージのないサーブやボルボだから、ドライバビリティと燃費を改善するという新しい目的のためにターボエンジンを設計できたのだ。 これに刺激を受けたのがフォルクスワーゲンだ。フォルクスワーゲンはエンジンを小排気量化し、それを機械式スーパーチャージャーとターボで過給してトルクアップすることで、低速から高速までパワーのあるクルマを仕立てようとした。 スーパーチャージャーはエンジンの力で駆動するので、排気圧が高まって風車が加速されるまで待たなくてはならないターボよりレスポンスがいい。高速側はターボを使うが30年間に進歩した様々な技術がターボの欠点を補ったのである。まずかつてスプリングでしか制御できなかったウェイストゲートバルブが電動で制御できるようになった。これにより、エンジンと連動して必要な時に弁の開け閉めができる様になった。必要な時に開けられるはもちろんだが、不必要な時に微妙に開いていた弁をがっちり閉じていられる様になったことは大きい。これによってタービンを加速するレスポンスが格段に早くなった。しかも小径ターボを採用しているのでなおさらだ。 タービンの加速を助ける技術はもう一つある。電制スロットルだ。現在のアクセルはアクセルペダルとスロットル軸は電気的にしか繋がっていないから、ドライバーの指示以外に、機械の都合でスロットル調整が可能だ。例えば、ターボの回転が落ちている状態からドライバーがアクセルを踏んだ時、電制スロットルは瞬間的にターボの加速最優先で制御を行うことができる。 加速の指示が出たら、電制スロットルは瞬間的にアクセルを全開にし、必要なら点火タイミングを遅らせる。こうすると高温高圧のガスが一気にターボを加速できる。そしてそれがエンジン出力を激変させる前にスロットルを絞ってしまう。電子制御ならではの緻密な早業でレスポンスの悪いターボエンジンを騙すのである。 またノッキングに対する制御も新時代の技術が取入れられた。ガソリン直噴だ。これは吸気途中のシリンダー内にガソリンを噴霧することで吸気を冷却する働きがある。ノッキングは吸気温度に左右されるから冷やすことでかなり抑えられる。1980年代には7:1という情けない圧縮比であったターボエンジンは、現在では10:1以上の圧縮比が可能になった。35年前には無過給エンジンでもなかなか難しかった圧縮比だ。これによって過給圧が低い領域でもエンジンはパワーも効率も落とさなくなったのだ。