橋下徹が解説する、日本で「国民が首相を直接選べない」理由
トップが独裁化したときにリセットできる仕組み
そもそもなぜ、これほどややこしい仕組みを築き上げてきたのでしょう。国の首相がいて、内閣があって、国会があって、国会の中でも衆議院と参議院に分かれていて、それぞれ任期も選挙のタイミングも違う。えらく複雑な気がするかもしれません。 でも、これもまさに長い歴史で痛い目に遭ってきた人類が編み出した知恵なのです。たとえばもしあなたの学校で、生徒や生徒会による選挙で民主的に選ばれた生徒会長が、選挙後に乱暴な本性を現し、好き勝手に生徒会を牛耳ったらどうしますか? 選挙までは一所懸命に頭を下げて、笑顔で誠実そうに見えていたのに、選ばれた瞬間に狂暴化し、裏で下級生をいじめていることが判明したような場合です。 しかし、気づいたときにはすでに遅し。そんな生徒会長の横暴にあなたが在学中耐えなくてはならないとしたら......。 もちろん、実際の学校生活ではそんな悲劇には陥らないかもしれませんが、現実には過去に人類はその悲劇を何度も経験してきました。最初から横暴な一面を見せていれば国民も警戒したでしょうが、大抵最初は聞こえのいい綺麗なことを言い、選挙で選ばれて国のトップに就任するんです。 当初は憲法の範囲内でできる部分から自分の権力を広げていき、続いて憲法そのものを変えることにも着手する。最初は巧妙に、「それくらいならいいだろう」と一般の国民が不安を抱かない範囲で。 でも、徐々にエスカレートしていき、皆が「ヤバい!」と気づいた頃にはもう手遅れ。命がけでトップを引きずりおろさないことには、国民全員が悲惨な運命に追い込まれてしまいます。その頃には、国会、内閣、裁判所や軍部も一人の人間が握ってしまっているので、トップを引きずりおろそうとした人間が犯罪者として捕らえられてしまう......。 まさにそのような手法を実際に行なったのが、ドイツのアドルフ・ヒトラーでした。選挙でトップ(総統)に選ばれたあとに国内のルールをどんどん変えていき、独裁体制を築きました。政府に反対する者は拘束され、強制収容所送りになりました。 現在のロシアもそうですね。大統領任期を定めたルールを変更して再選を繰り返し、仮に選挙が行なわれたとしても、はなから結果は決まっている茶番の選挙です。 ですから、まずリーダーが横暴化しないようにするために、リーダーの権力が一人に集中しないように分散させ、一部の権力を担う者同士がお互いにチェックできるようにしたのが「三権分立」です。 そして権力を担った者が横暴化したときには、国民が命をかけなくても、その人物を入れ替えることができるようにしたのが「選挙」です。選挙というのは、良い政治家を選ぶことよりも、悪い政治家を投票だけで入れ替えることに意義があるのです。
橋下徹(元大阪府知事)