橋下徹が解説する、日本で「国民が首相を直接選べない」理由
日本の政治システムは、国民が国会議員を選んだ上で、その議員たちが首相を選ぶという仕組みになっている。なぜ、このような複雑な手法をとっているのか? 本稿では、日本の政治システムのメリット・デメリットを、橋下徹氏による書籍『2時間で一気読み 13歳からの政治の学校』より解説する。(写真:的野弘路) 橋下徹氏が衝撃を受けた「石原慎太郎氏のふるまい」 ※本稿は、橋下徹著『2時間で一気読み 13歳からの政治の学校』(PHP新書)から一部を抜粋・編集したものです。
なぜ日本では「首相」を直接選べないのか
「そもそもなんで日本では国民が首相を直接選べないんですか?」と質問を受けることがあります。 アメリカや韓国では、「大統領」を国民が直接選ぶ仕組みになっています。「そのほうがより国民の意思が反映されるんじゃないの?」と思う日本人も多いようです。 たしかに、アメリカのように国のトップを国民が直接選挙で選べるメリットはあります。テレビなどでアメリカ大統領選挙の様子を見ていると、お祭りのような盛り上がりに驚きますよね。この本を書いている2024年は、11月5日にアメリカ大統領選挙が予定されています。 それに先立つこと半年以上前から、各政党の候補者を絞り込む予備選挙を含め、アメリカの次の大統領が誰になるのか、世界中が注目します。選挙特番では現在の大統領の実績や課題が語られ、候補者の経歴や政治的信条はもちろん、プライベートでの趣味嗜好や家族関係まで詳細に語られます。 一度大統領に選ばれれば、基本的には任期を全うします。アメリカ大統領の場合は4年(2期まで再選可能)、韓国大統領の任期は5年、その間よほどのことがない限り、国民は泣いても笑ってもトップを変えることができません。 だからこそ国民は真剣勝負で、自国のトップを選びます。国を治め、経済を導き、社会を安定させ、自分たちの顔として諸外国と渡り合ってもらうにふさわしい人は誰かと。 一方で日本では、国民が「この人を首相にしたい!」と選挙で直接選ぶことはできません。日本ではまず国民が選挙で国会議員を選びます。そこで選ばれた議員たちが指名した人物が、首相(内閣総理大臣)になります。こうした議院内閣制を採用する国は、ほかにもイギリスやドイツなどがあります。 学校にたとえるなら、アメリカ型では、生徒(国民)全員が「あいつを生徒会長(大統領)にしたい!」と直接選挙をする一方、日本型では、まず生徒会メンバー(国会議員)を生徒(国民)が選び、選ばれた生徒会メンバーが生徒会長(首相)を決めるようなものです。 正直、アメリカ型と日本型のどちらがいいのかは一概には言えません。どちらにも、メリットとデメリットの両面があるからです。 生徒会長(大統領)を選挙で直接決めるアメリカ型の良いところは、なんといっても生徒全員(国民)が「自分たちが選んだ」という意識をきちんと持てることです。自分たちがトップを選んだからには、そのリーダーの言動、決定の責任の一端は自分たちにあると自覚することができます。 ところが日本型の場合は、誰をトップ(首相)に据えるかを生徒(国民)は決められないから、どこか他人事のように感じてブーブー文句を垂れることができてしまう。 現実の政治行政において首相が変わったとき、「この人、誰だっけ?」と思ったことがある方もいるかもしれません。国会議員から支持されていても、国民からの知名度や評価とは別ですからね。 もっとも、日本型のメリットもあります。たとえばクラスの学級委員を決める場合は、直接投票でもいいと思うんです。1クラスの人数がせいぜい30~40人程度なら、クラスメートも学級委員立候補者の性格や資質をだいたい把握できていますから。 でも、これが500人を超える学校全体の生徒会長となればどうでしょう。さすがにクラスや学年を越えて、立候補者の性格や資質、人望を把握することは難しいですよね。下手に「顔がいいから」「性格がよさそうだから」「モテるから」などといい加減な基準で選んでしまうと、あとが大変になります。 それが数千万人、1億人を超えた人口規模の国家の代表ともなれば、ますます立候補者の資質などわかりません。立候補者の側も不特定多数の国民に向けて訴える必要があるので、わかりやすい人気取りに走りやすい。「アメリカ・ファースト!」と訴えてアメリカの大統領になったドナルド・トランプ氏も、直接選挙ならではの戦い方と言えるでしょう。 だから日本では、まず国民は自分たちに身近な代表(国会議員)を選ぶ。そして国会議員同士ならば、候補者の資質をある程度見極めることができるだろうという前提で、国会議員に首相を選んでもらう方式を採ったのです。