ドイツ製スポーツカーとはぜんぜん違うところが面白い アストン・マーティンDB12ヴォランテとジャガーFタイプ イギリス車の楽しさとは?
おじさんはこのスタイルにクラっときます!
イギリス車はドイツ車やイタリア車と比べて何が楽しいのか? ちょっと古いジャガー2台持ちのエンジン編集部のアライが、ジャガーFタイプとアストン・マーティンDB12ヴォランテに乗り考えた。 【写真12枚】素晴らしく優雅で美しくカッコいいアストン・マーティンDB12ヴォランテとロングノーズ・ショートデッキのスタイルがいかにもイギリス車らしいジャガーFタイプに思わずうっとり 「フツーの乗用車以上、スポーツカー未満」と聞いて最初に頭に浮かんだのは自分の愛車2台だった。 1987年式ジャガーXJ6と1992年式ジャガーXJSコンバーチブルはどちらもそれにピッタリ当てはまる。ジャガーXJSコンバーチブルは2座オープンという特別なボディ・スタイルがすでに普通ではない。一方、4ドア・セダンのジャガーXJ6が普通の乗用車ではないことは、エンジンの長期リポートで担当していた1992年式メルセデス・ベンツ300TEとの日々の乗り比べではっきりと感じることができた。 まず、ジャガーXJ6はメルセデス・ベンツ300TEより明らかに着座位置が低い。さらに首都高速のカーブなどではより鋭いノーズの切れ込みを感じる。運転していて圧倒的に安心なのはメルセデス・ベンツ300TEだが、楽しいのは? と聞かれればジャガーXJ6なのだ。 当時に比べるとジャガーとメルセデス・ベンツ、もっと言えばイギリス車とドイツ車のキャラクターの違いは小さくなったと思う。それでも、ドライバーズ・カーとしてイギリス車ならではの個性があるはずだ。そんなわけで、ドライバーズ・カーとしてアストン・マーティンDB12ヴォランテとジャガーFタイプというイギリス車2台を選び、その魅力を探った。 ◆美しさにため息 まずは、アストン・マーティンDBシリーズとしてDB11からDB12へと進化したアストン・マーティンDB12ヴォランテから見ていこう。ちなみにクーペではなくヴォランテを選んだのは、昔からイギリス車にはオープン・モデルが多く、イギリス車の魅力をより強く感じるのではないかと思ったからだ。 乗り出す前に私を虜にしたのはそのスタイリングである。なんて美しいフォルムなんだろう! 屋根を開けても閉めてもサイド・ビューの美しさは群を抜いている。感嘆のため息は運転席に座ってさらに大きくなった。DB11から刷新されたインテリアはよりエレガントにそしてゴージャスになった。試乗車はブラウンのセミアリニン・レザーが贅沢に使われていて、ドアの内張りに用いられたウッド・パネルとの組み合わせにセンスの良さを感じる。外観はDB11の美しさを継承しながら、インテリアのセンスは抜群に良くなったDB12である。 エンジンは4リッターV8ツインターボのみで、DB11に用意されていた5.3リッターV12ツインターボの設定はなくなった。メルセデスAMGが組み上げたものをさらにアストン・マーティンがチューンしたという4リッターV8ツインターボは、最高出力680ps /6000rpm、最大トルク800Nm/2750~6000rpmを発生する。0-100km/h3.7秒、最高速325km/hはスポーツカー未満とは言えないかもしれない。 それでも、シグナル・ダッシュや料金所からのフル加速などをする気がしないのは、このクルマが醸し出す気品のおかげだろうか。セカセカした気持ちにならない。8速100km/hの回転数はわずか1500。追い越し車線をイッキに抜き去る日産GT-Rを横目で見ながら悠然と進む。下々の者は忙しそうである。 前275/35ZR21、後ろ325/30ZR21という超極太タイヤを履いているわりには、乗り心地がいい。後席をふさぐように取り付けられたウィンド・ディフレクターを立てれば、風の巻き込みはほとんど感じない。このクルマが似合うジェントルマンになりたかったと思いながら箱根ターンパイクに入った。 エンジンのスタート・ストップ・ボタンのリングを右へ回すと標準の「GT」から「スポーツ」、そして「スポーツ+」へとドライビング・モードが切り替わる。この違いが凄まじい。スポーツ・モードにするだけで、さきほどのジェントルな表情はどこへやら、ノーズの切れ込みはイッキに鋭くなりグランドツアラーからスポーツカーへと変身する。実はとても好戦的だったジェントルマン、さきほどまではそれを知性で抑えていたのですねという感じで、豪快に山道を駆け抜ける。知性と蛮性の共有、まさにジェームズ・ボンドである。 ◆スポーティなFタイプ ジャガーFタイプに乗り換えてまず感じたのは軽さだ。DB12ヴォランテは1940kg、Fタイプは1670kgだから270kgも軽い。この軽さがFタイプをDB12ヴォランテよりスポーティに感じさせる。ドライビング・モードで表情を変えるDB12ヴォランテより、ハッキリとスポーティでわかりやすい。 「僕はこっちの方が好きです」 24歳の編集部員、ムラヤマがFタプを指さしながら、眩しい笑顔を私に向ける。そういう溌剌さがFタイプにはある。 さて、そんなFタイプもこれが最後である。試乗したジャガーFタイプZPエディションは、2025年からBEVブランドになるというジャガーが最後のFタイプとして世界限定150台で発表した。日本にはクーペのみ12台が導入された。 フロントに搭載される5リッターV8スーパーチャージド・エンジンは、最高出力575ps/6500rpm、最大トルク700 Nm/3500rpmを発生する。0- 100km/h加速3.5秒、最高速298km/hだから、こちらもスポーツカー未満ではないかもしれない。V8スーパーチャージド・エンジンのグォオーという雄叫びはすさまじく、スポーツカー未満じゃないぜと主張する。 スポーツカーを復活させるというジャガーのプロジェクトで2012年に登場したFタイプだが、こうして山道を走らせるといまでも軽快なフットワークに感嘆させられる。美しい後ろ姿がどこか寂しそうだ。 2台のイギリス車に乗り、運転しての楽しさにはいろいろあるのだと改めて思った。2台にはドイツ車のような精緻な機械を操る楽しさはないし、イタリア車が放つ官能性に酔うようなこともない。しかし、知性と蛮性が交じり合ったような独特の世界があり、そこを感じながら運転するのはとても気持ちがいいのだ。 私がそこに惹かれるのは年齢にも関係があると思う。 文=荒井寿彦(ENGINE編集部) 写真=茂呂幸正 (ENGINE2024年12月号)
ENGINE編集部