バルサ移籍報道の安部裕葵に鹿島サポから万感コール!
J1史上で初めてとなる通算500勝に到達した喜びを、ホームのカシマサッカースタジアムに駆けつけたファン・サポーターと共有する至福の時間。場内を一周している鹿島アントラーズの選手たちに降り注いでいた拍手と歓声が、時間の経過ともに「ヒロキ」コールへと変わった。 前半にあげた2ゴールを守り、ジュビロ磐田を零封で下した6日の明治安田生命J1リーグ第18節後のひとコマ。後半29分から投入されたアントラーズのMF安部裕葵(20)は、ゴールに絡む仕事をしていない。放ったシュートがゼロでも、万感の思いを込められて名前を連呼される理由があった。 スペインの名門、FCバルセロナから完全移籍のオファーが届いていることを、国内のメディアが一斉にに報じたのが3日前。アントラーズの鈴木満常務取締役強化部長(62)もオファーを認め、6日には一部スポーツ紙が「安部が移籍を決断、来週中にも渡欧」という記事を掲載した。 アントラーズは13日の次節を、敵地でベガルタ仙台と戦う。つまり、移籍が実現すればジュビロ戦が安部にとってのホームでのラストゲームになる。広島・瀬戸内高から加入して3年目で、今シーズンから「10番」を背負っている俊英を、夢と希望を託して送り出す雰囲気がスタジアムに満ちあふれていた。 「名前を呼んでもらえることは、シンプルに嬉しいので。そんな感じですね」 チームメイトに促されてスタンドへ手を振り、ゴール裏を赤く染めたファン・サポーターに一礼してロッカールームへ引きあげた安部は、スタジアムを去る前の取材エリアでちょっぴりはにかんだ。名前をコールされたことは嬉しかったが、自身の去就については明言を避けた。 「全然決まっていないんですけどね。先に報道がめちゃ出ているみたいですけど、それは僕の知らないことなので」
明確な意思をもって、サッカー人生を歩んできた。東京都出身の安部が両親の反対を押し切って広島県へ、しかも年末年始の全国高校サッカー選手権に出場したことがなかった瀬戸内高へ越境入学した理由は、3年生になる2016年に広島県がインターハイ開催地に決まっていたからに他ならない。 開催地になればサッカーの出場枠も1増の2校になる。2011年から3年連続でインターハイに出場していた瀬戸内高はベストの環境であり、青写真通りに地元開催のインターハイのピッチに立った安部は3ゴールをマーク。チームをベスト8に導き、常勝軍団アントラーズからのオファーを勝ち取った。 もっとも、Jリーガーになることは、高校時代までは無名だった安部にとってあくまでも通過点だった。強い海外志向をもっていた安部は、昨年1月に古巣アントラーズへ約7年半ぶりに復帰した元日本代表DF内田篤人(31)へ、その存在感に臆することなく話しかけてきた。 「海外から帰ってきた選手から、吸収しなければいけないものはたくさんあるので。だからこそ、積極的にコミュニケーションを取りたかった」 他の若手選手たちがそろって遠慮がちになり、距離を取っていたなかで、こう語る安部の姿勢が頼もしく映ったのだろう。ドイツで培った濃密な経験をあますことなく伝えてきた内田は、稀有な攻撃センスを身長171cm体重65kgの体に搭載した安部の将来に、笑顔で太鼓判を押したこともあった。 「自分から吸収しようという意欲を感じるよね。もちろん技術も高いし、能力もある。性格的にもこのチームで収まる選手ではない、と個人的には思っている」