テレビ討論会後の「ハリス氏優勢」は本当か 世論調査に現れない“隠れトランプ”支持層の存在、無党派層の動向がカギに
無党派層が気にするのは足元の経済状況
選挙戦直前の10月になって投票に関心を持ち始める無党派層は、足元の経済状況と今後の見通しが関心事項だ。 米国の8月の消費者物価指数(CPI)は前年比2.5%上昇と2021年2月以来の小幅な伸びとなった。選挙に影響するとされるガソリン価格も、9月12日付けのロイターはアナリストの見解として、来月には約3年ぶりに1ガロン(約4.5リットル)=3ドル(約425円) を割り込む見通しを報じている。 インフレは収まってきているが、国民の不満は物価水準の高さにある。 長期化する物価高が消費の重荷となっており、米銀シティグループは9日、「消費者の支出先は生活必需品にシフトしており、貸し倒れが増加している」と懸念した。 バンク・オブ・アメリカが7月に発表した調査結果では、物価高のせいでZ世代 (1990年代半ばから2000年代生まれ)の約半数が、家族からの経済支援に頼っている実態も明らかになった。 また米国政府によれば、昨年の実質世帯所得は4年ぶりに増加したが 、新型コロナのパンデミック前の水準を依然として下回っている。
米国の株価が大幅下落する可能性も
住宅事情も深刻だ。面積が縮小しているのに価格が上昇する「シュリンク・フレーション(シュリンク(縮む)とインフレーションを合体した言葉)」が起きており、住宅購入のボリューム層であるミレニアル世代(1980年から1990年代半ばまでに生まれた世代)は大打撃を被っている(9月10日付ニューズウィーク日本版)。 ハリス陣営は8月中旬に価格抑制に重点を置いた経済政策案を発表したが、専門家の間では「競争を阻害し、消費者にかえって悪影響を与えかねない」と評判が悪い。「住宅手当を拡充する」としているが、住宅価格をさらに高騰させるリスクがある。 「株価が大統領選の帰趨を決める」と言われているように、無党派層が最も気にしているのは株式市場の動向だろう。 米国では株式などの金融資産が生み出す所得は、今年第2四半期に年率換算で過去最高の3.7兆ドル(約540兆円)に達した。米国の金融所得は日本の40倍に相当し、物価高に苦しむ家計にとって欠かせない収入源となっている(8月23日付日本経済新聞)。 だが、雇用市場が軟調になるなど景気後退の兆しが出ており、今後、米国の株価が大幅に下落する可能性は排除できなくなっている。 このため、無党派層は足元の経済状況に満足していないようだ。ハーバードCAPS-ハリス世論調査(9月4~5日実施)によれば、「米国経済は正しい方向に向かっている」と回答した無党派層の比率は23% だった(共和党9%、民主党54%)。 無党派層の支持を得られない限り、ハリス氏の当選は望み薄なのではないだろうか。 藤和彦 経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。 デイリー新潮編集部
新潮社