「学区内での引越しもできない!」「子どもの髪型も自由に決められない!」国会答弁で次々と明らかになった「共同親権」導入案の摩訶不思議
参議院で審議入りした「共同親権」導入を含む民法改正案。5月7日からは参考人質疑が始まった。直近(2024年3~4月)の国会質疑に基づいて別居親の同意が必要となる範囲について、導入後に何が起きるのかを場面(教育・医療・転居)ごとに整理する。 【図を見る】疑問だらけの共同親権の実態
「急迫の事情」「日常行為」「重大な影響」とは?
離婚後の両親が共に親権を持つ、共同親権。 改正案は先月に衆議院を通過し、参議院で参考人質疑が始まっているものの、いまだ不透明なところも多く、実質的な離婚禁止制度になる不安はまったく払拭されていない。その中でも重要な論点となっている「別居親の同意が必要となる場面」について、過去記事に続いてさらに掘り下げたい。 具体的には、直近(2024年3月~4月)の国会での政府答弁に忠実に基づいて、同意が「必要な範囲」と「不要な範囲」を場面ごと(教育・医療・転居)に明らかにする。 別居親の同意が「必要な範囲」と「不要な範囲」を理解するには、まず以下4つの概念を整理する必要がある。 A:子に関するすべての事項 B:子の利益のため急迫の事情がある時 C:監護と教育に関する日常行為 D:子に重大な影響を与える行為 まず、共同親権を含む民法改正案の条文では大原則として、「子に関するすべての事項」(以降「A」)は別居親の同意が必要になる。「すべて」という言葉が示す通り、その範囲は極めて広い。ただし、例外として「子の利益のため急迫の事情がある時」(以降「B」)と「監護と教育に関する日常行為」(以降「C」)は別居親の同意は不要。しかし、厄介なことに日常行為であっても「子に重大な影響を与える行為」(以降「D」)は、やはり別居親の同意が必要となる。
子どもが髪型も自由に決められない可能性も
「急迫の事情」「日常行為」「重大な影響」について改正案の条文では、具体的にどのように書かれているかというと…驚くべきことにほぼ何も書かれていない。 つまり、Aの範囲が広過ぎることに加えて、B~Dの定義(=境目)が曖昧過ぎることが大きな問題といえる。 ・急迫か否か(AとBの境目) ・日常行為か否か(AとCの境目) ・重大な影響を与えるか否か(CとDの境目) そのため、3月から始まった国会審議で共同親権に懸念を示す議員たちが 「○○の場合は急迫の事情なのか」 「○○は日常行為なのか」 「○○の場合に重大な影響を与える日常行為とは何か」 と、具体的な場面を一つずつ例示しながら質問することで、ようやく政府見解が少しずつ明らかになってきた。 今回は本題でないため詳しくは言及しないが、B(急迫の事情)やC(日常行為)に当てはまる場合であっても別の問題がある。改正後は双方の親が単独決定可能なため、意見が対立したままの場合は双方が真逆の意思決定を応酬し、同意を確認する側(医療機関、保育・教育機関等)は混乱に陥る可能性がある。いわゆる「無限ループ問題」である。(*詳細は過去記事参照) この広くて曖昧な別居親の同意が必要な範囲をめぐって国会では、ブラックコメディのような政府答弁が続出している。 例えば4月23日(衆議院 法務委員会)には、本村伸子議員(共産)が髪を染めることや髪型(パーマ、ポニーテール、ツーブロック等)の選択がC(日常行為)に含まれるかを質問。これに対して法務省(竹内努民事局長)は、校則違反の可能性がある場合は進路に影響するから重大であるという理屈でD(重大な影響を与える行為)に含まれる(=別居親の同意が必要)と答弁。(*主な論点について筆者による図解を加えた質疑映像。外部配信サイト等で動画を再生できない場合は筆者のYouTubeチャンネル「犬飼淳 / Jun Inukai」で視聴可能)
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