仲里依紗ら人気俳優たちが脚本・監督する短編映画シリーズ。予算は同じ、本人が出演、25分以内…『アクターズ・ショート・フィルム』の魅力
◆福士蒼汰監督『イツキトミワ』 ボーイ・ミーツ・ガールの物語を見事にまとめ上げたのが本作だ。 清水尋也演じる一葵はグループ展に自らの絵を出展する。一葵は建設会社で働きながら、障害のある弟をケアする日々を送り、その傍らで絵を描いている。ある日、彼の絵を見にきた芋生悠扮する三羽と知り合うのだが……。 この短編、福士蒼汰という「爽やかな好青年」的パブリックイメージで触れるとケガをする。前半の淡い恋路は非常にナチュラルに主演2人や小澤征悦や木村了の共演者が演じ、恋愛で生じる多幸感の表現も抑制されている。 一葵と三羽がLINEを交換する際のぎこちなさ、居酒屋での会話のテンポなど、ドキュメンタリーすれすれの流れで切り取り、積み重ねる。
◆荒廃、喪失、再生への祈りのドラマ そして、どう恋路が進むのかと気になったところで、黒澤明『生きる』やギャスパー・ノエ『アレックス』のような時間操作が途中でなされる。 長編なら時間の逆行はエフェクト作用やドラマ内の説明により、スムーズに観客に伝わるけれど、その説明をするいとまもない短編では勇気がいる。脚本段階からの狙いだったようだが、福士はエフェクトに頼らず、俳優の力で時間遡行を敢行する。 過去と現在を区切るスターター伊澤彩織の凄みは必見だ。彼女が缶チューハイをあおり、タバコを吹かして三羽と会話する場面だけで全てが理解できるというのは驚きだ。けれど、見る側は福士が俳優陣の演技力を信じる姿勢に感動している暇も与えられず、すぐさま荒廃、喪失、再生への祈りのドラマに連れ去られる。 これまで絵を描く様は『ミステリアス・ピカソ 天才の秘密』や『美しき諍い女』などの映画が描写していたが、ラストの清水尋也の姿は嘘が限りなく存在せず、ただ観ることで感情を動かされる。役を超越して「人がキャンバスに向かうこと」を示す、素晴らしい場面だ。 福士作品は短編ながら作品の構成の冒険、自然で言葉少ない会話、そしてクライマックスのキャメラ、演出、俳優の充実において非常に完成度の高い作品になっている。
岸川真