『海に眠るダイヤモンド』脚本家・野木亜紀子 × 監督・塚原あゆ子の頭の中
名作が生まれるところには、ドラマのために熱く動く“仕掛け人”たちがいる。脚本家や監督、プロデューサーという立場から挑戦を続ける4名の考えていることを聞かせてもらった。今回は、脚本家・野木亜紀子と監督・塚原あゆ子にインタビュー。 【記事中の画像をすべて見る】
creator’s rules
〈野木さんのルール〉 1.面白くないと思ったことは、絶対採用しない 2.必ず面白くなると信じて諦めない 3.考え尽くしたうえで、寝る 〈塚原さんのルール〉 1.ドラマの台本はにぎやかな場所で読む 2.台本の見返しにその回の「目次」を作る 3.撮影現場では「さようなら」の挨拶を大事に
「普通ならやらない」を実現してしまうチーム
──野木さんと塚原さんはこれまで『アンナチュラル』『MIU404』など、"今"を映す作品を作ってこられました。今期の日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』(TBS)では、海底炭鉱によって栄えた1950年代の端島(軍艦島)と現代とが描かれます。この時代と場所を描くことの意義とは? 野木:「小さなところに人がぎっしり住んでいる」という端島の姿は、日本そのものにも重なると思っていて。特殊な島の少し昔を通して「じゃあ現代の私たちはどうやって生きていきましょうか」ということが見えればいいかなと。ただ今回はテーマ性よりも、日曜劇場らしい家族、友情、人生の描写、そこを生きた人々の物語をどう見せていくかに重心を置いています。 塚原:作品は石炭の時代から始まりますが、エネルギー源が石炭から石油へと変化したことで、社会の構造は激変しましたよね。その時代を今、取り上げる意味があるなと思いました。最近地方でソーラーパネルをたくさん見かけるけど、これからエネルギーってどうなるんだろう、と思いませんか?この作品を撮っていると、時代の変遷と人の人生はこんなにも切り離せないものなんだとあらためて思います。昔の事象と現在とはゆるやかにつながっていて、歴史は繰り返している。そこから私たちが学ぶことがある気がして。 ──野木さん、塚原さん、そして新井順子プロデューサーのお三方は多くの名作ドラマを生み出してきました。お互いだからこそできることはなんでしょう? 野木:塚原組は無茶ができる(笑)。今回のような大変な題材を「やりましょう!」と言えてしまう新井さん、それを具現化する塚原さん。「普通ならやらないよね」を実現してしまうチームですね。 塚原:たしかに今作は過去と現代で2本のドラマを撮っているようなものだし、端島はCGで表現しなきゃいけない。でもこれ、大変であることを自覚したうえで出した企画だったの!? 野木:一応(笑)。民放のドラマ枠で一番大きなことができるのが日曜劇場だなと。塚原さんと新井さんとのチームは実家のような感覚があります。でもそうやって作品を重ねてきた結果、私は「倦怠期」と呼んでるんですけど(笑)、新井さんに「放っておいても書く」と思われてるフシがある。まあ以前からそうと言えばそうなんですが、「調べるし、書くけどさあ!」と言いながら作ってます。 塚原:新井さんとは他の作品でも組むことがあるけど、台本の作り方はいつも一緒なわけじゃないんです。たとえば今回だと、最初は野木さんと新井さんとで合宿をやって、主人公の家族構成やヒロインが3人であることは話し合いましたが、後はぜんぶ野木さんにお任せ。でも、他のドラマだとまず最初に私と新井さんとで「何話で何が起きる?」と会議して流れを作り、その上で脚本家さんにお願いするパターンもあるんですよ。そうやって0から1を作る作業は、やっぱり大変なんです。生みの苦しみがある。その点、野木さんとやる場合は、最初の話し合いを踏まえてプロットから全て野木さん自身がやってくれるうえに、脚本が確実に面白い。だから、申し訳ないけど楽しいだけ。楽させてもらってます。 野木:プロデューサーが全部構成を決めてそれに沿って脚本を書くというチームも世の中にはあるからね。企画の大枠はともかく、ストーリーラインやプロットなど中身の部分は、私が作った方が面白いものになると信じてるから。 塚原:それは正解。 野木:でも「ここ上手くいかないなー」というところは塚原さんに相談します。そうすると、すごくいい助言をくれて解決するんですよ!