20年に渡る物語に夢中になれる『マーダーミステリー:ザ・トリロジー』は、1つの町で起きた3つの事件を体験する三部作マダミス作品
マダミス評論家にっしーによるおすすめマーダーミステリー紹介の第2回は『マーダーミステリー:ザ・トリロジー』を紹介します。 なお、マーダーミステリーは1つの作品を1回しかプレイできないという性質上、ネタバレ厳禁なゲームジャンルです。 この記事でもネタバレには触れないようにしています。それでも一切のネタバレ無しというわけにはいかないということ、そのせいで一部が抽象的な表現になっていることはご了承ください。 今回紹介する『マーダーミステリー:ザ・トリロジー』は、第1部、第2部、第3部の三部構成をとっており、とある田舎町でおきた3つの事件を体験できます。物語世界への没入が大事にされており、プレイすることで1つの町の20年の歴史を感じられる作品になっています。 文/にっしー 編集/竹中プレジデント ■作品世界とキャラクター心理へ深く没入できる マーダーミステリーは犯人探しの推理ゲームですが、ほかの推理ゲームと大きく異なるのは、物語体験のゲームでもあるということです。 プレイヤーは登場人物の1人となって現場に臨み、それぞれの登場人物にはその場に居合わせるまでの半生があります。 犯人が犯行に至ったのは、単なる気まぐれでも太陽がまぶしかったからでもなく、そこにはきちんとした理由があります。たとえば、家族や恋人を殺された復讐、あるいは大切にしている家族や信条を守るためです。 そして犯人以外の登場人物にも、その日に至るまでの生涯や目的があります。 良いマーダーミステリー作品では「登場人物に共感してプレイヤー自身の心情を重ね合わせ、キャラクターとしての決断や選択を迫られる」からこそ、作品世界に没入することができます。そしてそれによって大きく心を動かされる体験を味わうことができます。 『マーダーミステリー:ザ・トリロジー』では物語世界への没入が大事にされていて、まさに1つの町の20年の歴史を感じることができます。 また、マーダーミステリーに存在している構造的な欠点が、三部作という構成ならではの手法で解決されていて、初めてマーダーミステリーに触れる人でも重厚な体験を味わいつつ、楽しむことができます。 本作ではとある田舎町を舞台にした1970年、1980年、1990年に起きた3つの事件をそれぞれ1本のマーダーミステリーとしてプレイします。 初めはその田舎町や登場人物たちのことをまったく知らないプレイヤーが徐々に作品世界の中へ入り込んでいき、登場人物たちの半生の軌跡を追体験することで深く知ることになります。 ■単なる設定ではなくゲームプレイを通じてモノにできるストーリー マーダーミステリーでは、ゲーム開始時点までのプレイヤーキャラクターのいきさつが設定書(ハンドアウトと呼ばれることもあります)としてまとめられています。 そこには犯行当日の行動(アリバイ)が記載されているだけでなく、キャラクターの生い立ちや人間関係といった、プレイヤーが没入するための要素も含まれています。 この設定書を読むことで登場人物を理解すると同時に、そのキャラクターがどう行動すべきかの指針となります。 登場人物や背景世界の解像度を高めていくと、どうしても設定書が長くなってしまいます。とはいえそれによる弊害がありますし、設定書から汲み取れる没入感には限界があります。 設定書を読み込む時間は10分~15分が一般的ですが、長い作品だと30分以上かかるものもあります。 しかしプレイヤーは小説を読みたいわけではなく、マーダーミステリーというゲームをプレイしたいのです。ゲーム冒頭で延々とムービーシーンが続いて、なかなか操作できないようなものです。 また設定書が長ければ長いほど世界観が複雑で登場人物も多くなりがちですが、読了したからといって入り組んだ人間関係をきちんと把握できるわけではありません。 プレイヤー同士の話し合いを始められず、しっかり理解しながら読むというストレスがかかる状況で得られる没入感には限りがあります。 たとえば『ドラゴンクエストV』で主人公の前半生があらすじとして文章だけで語られ、結婚相手を選ぶシーンからゲームが始まったとしたら、ビアンカとフローラのどちらを選ぶかそれほどは悩まないでしょう。 実際の『ドラゴンクエストV』では、結婚の選択までプレイヤーが主人公として冒険を続けてきた体験があるからこそ、幼馴染を選ぶのかお金持ちのお嬢様を選ぶのかという葛藤が生まれます。 マーダーミステリーでも、同じ出来事であっても設定書に事実として書かれていることを読んだだけで臨むのと、登場人物としてゲームプレイの中で体験するのとでは臨場感に大きな違いが生じます。 『マーダーミステリー:ザ・トリロジー』でも設定書を読む必要はありますが、第1部、第2部、第3部と分かれているため個々の設定書はコンパクトです。 そしてプレイヤーがゲームプレイによって田舎町の20年を追体験することで、歴史の重みや登場人物たちがいまこの場にいるに至った理由をより深く知れますし、複雑な物語も段階的に理解することができます。 いわば物語と登場人物をしっかりと自分のモノにできます。 ■三部作を活かしたゲームデザインと難易度調整 そして初めから三部作としてデザインされているからこそ、重層的で複雑な背景や人間関係を織りなし、見せることができます。 それは犯人探しの推理ゲームにもうまく反映されています。 設定書を分厚くすれば本作の完結編となる第3部だけをプレイすることはできるでしょう。しかしそれではプレイヤーが作品を自分のモノにした状態ではないため、三部作としてプレイするほどの深い物語体験は得られず、凡百な作品の1つとして終わってしまうでしょう。 三部作という構成はゲームデザインでも活かされていて、そのおかげで本作は初心者も十分に楽しめます。 複雑な作品はマーダーミステリーの奥深さを体験できますが、初心者には敷居が高いという難点があります。 『マーダーミステリー:ザ・トリロジー』は三部作にすることで、初心者向けと複雑さを見事に両立させています。 第1部は第2部以降と比べると情報量は多くなく、マーダーミステリー作品全体の中でもシンプルな部類です。 マーダーミステリーに触れるのは初めてという人であってもルール自体でつまずくことはないでしょうし、話し合いのきっかけも提示されています。 そして第2部、第3部と進むにつれて、基本的なゲームシステムはそのままに徐々に複雑になっていきます。プレイヤーには第1部や第2部のプレイ経験と世界観の理解という蓄積があるため、いきなりプレイしたら難解に感じる場面も苦になりません。 良質なアクションゲームと同様、プレイヤーの学習曲線が意識されたゲーム作りとなっています。 そのおかげでゲームの進行役が不要で、マーダーミステリー初プレイの人でもプレイできますし、マーダーミステリーの醍醐味である推理と物語体験の両方を深く味わうことができます。 ■『マーダーミステリー:ザ・トリロジー』イントロダクション 連続する3つのシナリオから成るマーダーミステリー。 第1部(ひとつめのシナリオ)は1980年、「療養所を脱走した連続殺人鬼」の噂がささやかれる田舎町が舞台。嵐が去ったあとの廃駅で起きた殺人事件を、その場に居合わせた謎の2人組と、「殺人鬼さがし」を行っていた子供たち、そして地元の巡査が解き明かします。 第2部はその10年前、1970年の「連続殺人鬼が隔離されている療養所」が舞台。2件の放火事件と、その間に発生した所長の死。その謎に、勤務医や研修中の医学生、職員、患者、入所者の面会に訪れていた刑事、なぜか施設内で育てられている子供らが挑みます。 第3部は1990年、第1部と第2部で描かれた廃駅や療養所を内包する田舎町全体が舞台となります。10年ぶりに起きた殺人事件と、現場に残された「連続殺人鬼」のサイン……。過去にとらわれた関係者たちは、次の殺人を防ぎ、魂の救済を得ることができるのか? プレイ人数:6人(進行役不要) プレイ時間:360分 プラットフォーム:パッケージ
電ファミニコゲーマー:にっしー,竹中プレジデント
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