AIの指示に従う時代がくるのか? いま「人間に求められるリーダーシップ」
リーダーシップを身につけるために必要なこと
ここまで見てきたように、不確実な状況の中でもリスクをとって物事を進化させるためには、現場スタッフにもリーダーシップが必要となってきます。それでは、実際にどのようにしたら、一人ひとりがリーダーシップを育むことができるのでしょうか? リーダーシップ論は様々な先行研究があり、膨大な知恵が既に社会に溢れていますので、ここではとくに私が重要だと感じる点を取り上げて紹介したいと思います。
・とにかく、バッターボックスに立つ 周りから自分の意見を求められた時、皆さんはそれにどのように向き合っていますでしょうか。もちろん、その質問内容や置かれた状況によって対応は都度変わりますが、大きく3つに分類することができます。 1つ目は、状況を整理して述べる「実況中継型」の対応です。これまでの周囲メンバーの意見や自分が知っている情報などを、整理するだけのタイプです。一見すると理路整然と意見を述べているようで、自分の意見は表明しない、つまりリスクを一切取らない動きです。 2つ目は、限られた情報や直感を信じて意見を述べる「決めうち型」の対応です。自分がその時に思ったこと、考え方を明確に発信するが、その理由や根拠は整理されていない状況です。 3つ目は、自分の意見も根拠も明確な「主張・根拠のセット型」の対応です。まずは自分の意見をしっかり表明した上で、その根拠を述べて相手に理解を促していきます。 これら3つのパターンを比べた時、目指したい状態が3つ目の「主張・根拠のセット型」であることは一目瞭然ですが、重要なのは残り2つの比較です。最初に結論をお伝えすると、どうしても主張・根拠のセット型での対応が難しい場合には、「実況中継型」よりも「決めうち型」をあえて意識した方が、結果としてリーダーシップを育むことができると考えています。 「決めうち型」を意識すると、組織の様々な場面で自分の意見を表明することに繋がります。自分の意見を表明すると、周囲から様々な質問や反論が寄せられます。 最初のうちは、それに対応できずに悔しい思いをすることもあると思いますが、質問や反論をもらうことで自分自身の考えがブラッシュアップされていきます。質問・反論に謙虚に耳を傾けるという姿勢さえ持っていれば、自分の意見を叩き台に組織内の議論が進んでいくことになります。 逆に「実況中継型」は、誰も反論できないようなもっともらしい情報を整理して伝えてはいますが、結局リスクをとって自分の意見を述べることを避けている形になります。このスタイルに慣れた人は、批判や評論のコメントは鋭いけど、「ではあなたはどうしたいのか?」という問いには向き合わないようになっていきます。 大きな組織の中で、誰かが決めてくれる環境下ではそれでもよかったかもしれませんが、自分の意見を踏まえて人をリードすることは難しくなっていきます。また、情報を整理して批判したり、選択肢を並べるという行為は、AIが得意とする領域であるため、その取り組みの価値そのものも低下していくことが予想されます。 リスクをとって自分の意見を主張することは、批判に晒されたり、場合によっては間違った意見ということで訂正を迫られたりするので苦しいものです。しかし、その経験を通じてこそリーダーシップが磨かれていくと私は信じています。なるべく多くバッターボックスにたち勝負をし続けることが、成長の近道と言えるのではないでしょうか。
鳥潟幸志(株式会社グロービス マネジング・ディレクター)