別れた途端ストーカー化した元恋人の陰湿な嫌がらせ。「別れるなら500万円払え」と無茶な要求をするストーカーの本音は
【この記事ではストーカーについて具体的な描写があります。フラッシュバック等症状のある方はご留意下さい】 「夜逃げ屋」という仕事があることをご存知でしょうか。 DVや虐待、ストーカーなどから逃れるための「夜逃げ」を専門とする引越し業者が存在します。 【マンガ】『夜逃げ屋日記3』を最初から読む マンガ『夜逃げ屋日記』の著者・宮野シンイチ(@Chameleon_0219)さんは、たまたまTVで見かけた「夜逃げ屋」の女性社長に興味を引かれ、実際にこの会社で働きながら取材してそれをマンガに綴ることにしました。依頼者たちは、「幼い頃から親の虐待に苦しんできた男性」「夫の暴力に苦しむ妻と中学生の息子」「宗教にのめり込む母親の束縛から逃れたい女性」など、それぞれの状況で必死に生きている人々ばかり。どれも読むだけでつらくなるようなエピソードばかりですが、そんな人々が苦しい状況から離れて新たなスタートを切る様子には胸を打たれます。 9月に発表された新刊では、ストーカーやDVの被害者のエピソードが描かれています。今回は執拗に被害者につきまとうストーカーのエピソードと、著者の宮野さんのコメントをご紹介します。 ■「夜逃げ屋日記」町田カオルさん(仮名)のエピソードより DVや虐待から逃げたい人の引っ越しを専門とする業者、通称「夜逃げ屋」。今回の依頼者は元カレのストーカー行為に悩む女性・町田カオルさん(仮名)でした。 町田さんは彼氏の酒グセの悪さに愛想を尽かして強引に別れたものの、何度も家に押しかけて来るので引っ越すことになりました。しかし引越し後も家を割り出されてしまい、郵便受けの中身を抜かれたり、自転車を何度もパンクさせられたり、それ以外にも口に出すのははばかられるような陰湿すぎる嫌がらせを何度も受けることになりました。 警察を呼んだら殺されるのでは…と恐怖を感じた町田さんは、夜逃げ屋に引っ越しの依頼をします。 ストーカー案件の「夜逃げ」は加害者の動きが予測しづらく、引っ越し作業中に加害者と鉢合わせしてしまう可能性も十分あるとのこと。夜逃げ屋の社長はスタッフの宮野さんにストーカーの顔写真を見せ、「この男を見かけたら命の危険がある」「しっかり覚えろ」と、スタッフの宮野さんに言い聞かせるのでした。 盗聴器や盗撮器が仕掛けられていないことを確認してから、夜逃げ屋スタッフ一同は作業を開始しました。しかし作業の途中、段ボールを持ち出そうとドアを開けた宮野さんの前に、例のストーカー男の姿が…。社長は即座にドアを閉めて鍵をかけ、警察を呼ぶよう指示します。 警官がやってきてストーカー男と話をしますが、「別れたつもりはないから交際は継続中だ」「別れるなら金を払ってほしい」「彼女と直接話し合えるなら署まで同行してもいい」などといい、町田さんは警察への同行とストーカー犯と話すことを求められます。町田さんはそれを拒否し、夜逃げ屋の社長も怒って警察の依頼を阻止したため、状況は膠着したまま時間だけが過ぎていきました。 長い時間が経過し、しびれをきらした社長が警察に抗議していると、その隙にストーカー犯の男はマンションの手すりを超えて飛び降りようとしました。社長に引き戻されマンションの通路の床に転がったストーカー犯は、まるで子どものように泣き出し、意味不明なことを喚き散らしながら暴れ、ようやく警察に連行されていったのでした…。 このエピソードについて、著者の宮野シンイチさんにお話を伺いました! ■著者・宮野シンイチさんインタビュー ──このエピソードも恐ろしい話でしたね……。この話では夜逃げの作業の前に、盗聴器や盗撮器を発見するプロの業者「ズラたん」さんが登場します。盗聴器や盗撮カメラなどにまつわる怖い実例、ストーカー対策など、ズラたんさんから伺ったことがあれば教えて下さい。 宮野さん:ズラたんさんからお風呂場の換気扇ところに、監視カメラが設置されてて……という話を聞いたことがあります。何が怖いって、それを設置したのがそこの大家さんだったという……。つまり、大家さんだから合鍵を持っていて、不在の間にこっそり入って設置したということらしいです。ほんと誰も信用できませんよね。怖い世の中です。なので、作中で描いたように、自分で鍵を追加で設置して、二重ロックにするのは本当に有効なんですよ。 ──このエピソードに登場する加害者は、かなり陰湿なストーカー行為をしていますね。夜逃げの最中にストーカー犯が現場に現れるエピソードが描かれていますが、ストーカー犯と鉢合わせた時の心境を教えて下さい。 宮野さん:ストーカーが相手を刺して殺した、という報道を時々耳にしていたので、それに近い存在が目の前にパッと現れて、何を持ってるかわからず、殺されてもおかしくない状況だったので、怖かったです。 ──加害者が泣きわめきながら暴れ出した場面は、人間の醜い姿をこれでもかと描いていて印象的なシーンでした。「こんな惨めな大人の姿を初めて見た」ということでしたが、この場面を漫画にしたときにこめた思い、あるいは描く時にこだわった点などがあれば教えて下さい。 宮野さん:やっぱり、とてつもなくかっこ悪くて、不快に感じたんです。本人は自分をどう思ってるか知らないけど、悪いことをして、これだけ周りに迷惑をかけて、最後は子どもみたいに泣き散らかして退場する大の大人って、見ててかなりキツいんですよ。読んでる人たちに、その時感じた、僕の「うわぁ……。なんだこれ。」という、複雑で不快な気持ちや、その場の空気を感じて欲しいと思って描きました。 ──作中では、また別の元ストーカー犯のエピソードも出てきます。このストーカー犯は元交際相手に多額の金銭を執拗に要求するのですが、その理由が「相手が払えない金額を要求することで、さらにつきまとうための口実にする」とのことで恐ろしく感じました。宮野さん自身はこのようなストーカーたちの行動や考え方についてどのように感じていますか。 宮野さん:どんなことでもいいから、好きな人と何かしらで繋がっていたい。ここだけ聞くと、いじらしさも感じるんですけど、ここまで利己的で異常な執着を見せられると本当に怖いし、気持ち悪いと感じました。一回俯瞰して自分のやってることを見て、思い直して欲しいと思いました。 ──SNSでこれらのストーカーのエピソードについて反響やコメントはありましたか? もしあれば印象に残っているものを教えて下さい。 宮野さん:夜逃げ屋スタッフ兼カウンセラーのジョーさんの分析のシーンが印象に残ったと、コメントされた方が多かったのを覚えています。「あくまで自分は加害者で、要求したお金を払わない相手を加害者にする」「そのほうが自分のストーカー行為を正当化しやすい」など、理解に苦しむストーカーの行動を分析して言語化してみると、その怖さや異常性をより強く、わかりやすく感じられるんだなと思いました。 * * * 一度目をつけられてしまうと、なかなか逃れることのできないストーカー被害。異常とも思える執拗さでつきまとう彼らの考え方を描いたこのエピソードに、言いようのない気持ち悪さや恐ろしさを感じた方も少なくないのではないでしょうか。そんな彼らの考え方には決して共感することはできませんが、この作品でその行動の理由を知ることは、ストーカー対策において何らかのヒントになるかもしれません。 取材・文=レタスユキ