37億年前-世界最古記録の生物化石「ストロマトライト」の発見(上)
さて、今回の発見が多くの古生物学者(化石研究者)や太古地球環境における地質学者達から(少しばかりの驚きとともに)強い興味をもって迎えられているのは、まず単にバクテリアの個体化石ではなく「ストロマトライト」として判定されている点にあるようだ。ストロマトライトとは、主にシアノバクテリア(いわゆる藍藻類)の幾つかの種によって形成されたと考えられる構造物をさす。この生物グループは基本的に緑色をした光合成を行う多数の細菌類で、ネンジュモなど寒天状の食材(中華料理の髪菜など)もこのグループに分類されている。 一部のシアノバクテリアは、興味深いことに多くの個体が密集し土砂などを利用して大きな家のような構造物をつくる(建てる)。ちなみにストロマトライト(英名:Stromatolite)とはギリシャ語のstroma+lithosから派生し、直訳すると「マットレス状、層状の石」という意味で、文字通りこの建造物を端的に表している。(これほどふさわしい生物グループの名前もなかなか見あたらないといえばおおげさだろうか。)私を含む多くの古生物研究者にとって、無数にある化石グループや種などの名前を覚える際、その語源やオリジナルの意味をチェックすることは非常に重要だ。
こうした構造物(ストロマトライト)の存在は、1960年代の発見以来、オーストラリアの一部の海岸沿い(シャーク湾など)やカナダ西部の淡水湖など、非常に限られた地域において、現生種のものが直接観察することができる。サッカーボール大程のものが遠浅の温暖な海や湖の沿岸に、かなり広範囲に何千何万と群がっている。ちょっとしたさんご礁のような独特の趣でなかなかの壮観だ。 現生のストロマトライトは(植物のように)光合成を行うため、年間を通し強い太陽光が降り注ぐ場所でしか生息できない。このストロマトライトだが波が激しく打ち寄せたり風雨の強い場所では、なかなかその構造物を維持できないようだ。温暖で静かな環境を好むライフスタイルは、太古の昔から引き継がれてきたものと考えられている。 このストロマトライトの構造はかなり独特だ。何重にもライン状の層がみられる(年間1-2ミリほど厚さで層が積み重なるようだ)。そして、この独特の構造物は化石として非常によく見つかる。その構造状、比較的簡単にその判定を下せるので、見間違うことも少ない。(今回発見された化石も1-4cmくらいで積み重なった層が確認されている。) 化石記録におけるストロマトライトの存在は、25億年前から5億年前頃(原生代初期から顕生代初期)の地層から非常に多数、世界各地において知られている。実際私も、ここ北米アラバマ州の約5億年前(カンブリアン紀)の地層で、非常に多数の化石が見つかる場所を知っている(イメージ2参照)。しかし生物の歴史上、25億年より古い時代の地層からはあまり知られていない。 生物がバクテリアの仲間として初めてこの惑星に誕生したのが、(現生バクテリアのDNAなどのデータによって)約40億年前と推定されている。そのすぐ後、37億年前頃に、太古の生物ははたしてどのようにしてストロマトライトのような、一見壮大でしゃれた見かけの建造物をつくる技術を進化上、手に入れたのだろうか?「シンプルから複雑なものへの変遷」とういマクロ進化の流れに反してはいないだろうか? 一古生物研究者の戯れ言として聞き流しておいて頂けたら幸いだ。