同僚が「会社から交通費が出ているけど、もったいないから会社の近くまで自転車で来ている」と言っているのですが、これは違反ではないのでしょうか?
Aさんは、会社の同僚に「会社から交通費をもらっているけど、会社の近くまで自転車で来ている」と聞きました。 これは違反にならないのかと疑問に思っています。このようなケースは規定違反になるのでしょうか? 本記事で見ていきましょう。
通勤手当とは
まず、通勤手当とはどのような性格なのかを見てみましょう。 通勤手当は、『通勤に要する費用を支弁するために支給される手当であり、「労働の対償」として 支払われるものとして、労働基準法上の「賃金」の一部として整理されている』とあります(出典:厚生労働省「通勤手当について」第2回 社会保険料・労働保険料の賦課対象となる報酬等の範囲に関する検討会)。 支給の方法は、通勤費用を全額支給の場合、支給に上限がある場合、現物(定期券等)での支給の場合、新幹線通勤の規定がある場合など、企業によって異なりますが、30人以上の企業で92.3%支給されています(出典:厚生労働省「令和2年 就労条件総合調査の概況」)。 しかし、通勤に関する費用を会社が負担することを義務づける法律はなく、通勤手当は強制されるものではありません。
不正受給は懲戒処分の対象
通勤手当の支給については、各企業のルールによります。多くの場合、通勤手当は労働契約や就業規則で定められていて、それに従い支給されます。 Aさんの同僚は「交通費をもらっている」と言っているので、実費を支給してもらえるのでしょう。ただし、会社に届け出ている通勤手段での費用ですから、通勤手段を変更したら会社に届けなければなりません。 通勤手当は従業員が負担する通勤費用を支弁するためのもので、自転車通勤に変更の場合は実際に発生しない費用に手当をもらうことになり、通勤手当の不正受給になります。 「もったいないから」と、意図的に自転車通勤をして交通費を浮かす行為は、節約行為ではありません。自転車通勤で費用負担ゼロなのに、公共交通機関を利用した交通費を会社に出させたのですから、詐欺罪(刑法 第246条 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する)に該当する可能性もあります。 就業規則の懲戒事由に該当する場合は、懲戒処分の対象です。 ただし、労働契約法15条には、労働者を懲戒することができる場合でも、「労働者の行為の性質および態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には権利を濫用するものとして、当該処分は無効にする」とあります。懲戒は慎重に判断されます。 懲戒を定める場合は、種類・程度を就業規則に記載することが義務づけられています。就業規則を確認しましょう。 また、民法 第703条(不当利益の返還義務)には、「法律上の原因なく他人の財産または労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う」とありますので、今までの不正受給分を返さなければなりません。