奪われたお宝を取り戻せ…海外に流出した文化財返還に本腰入れる中国
世界四大文明の一つが、中国文明。それら四大発明に関係する歴史的文化財も、数多く、中国から海外へ流れ出た。先ほど紹介した改正文化財保護法の意義について、中国メディアはこう伝えている。「文化遺産は、中華民族の遺伝子と血を受け継いでいる。中国の優れた文明の再生不可能、かつ、かけがえのない資源だ」。つまり、ここにポイントがある。中国が流失文化財の返還に、本腰を入れるのは、習近平政権の志向と一致している。 ■「中華民族の遺伝子と血を受け継ぐ」 習近平政権の志向とは「四大文明の一つである」という誇りだ。ひと世紀、ふた世紀ではなく、数千年単位で比較すれば、自分たちは極めて優れた文明をつくり出し、その中で今日も役立つ発明品、賞賛される歴史的文化財を創造してきた、という自負が存在する。 一方、それら文化財が海外へ流失したのは、弱体化していた時期が中国にあったから「奪われた」という「歴史の痛み」だ。それは19世紀後半から20世紀前半にかけての、清朝末期から、欧米列強に国土を踏みにじられた時期に当たる。 流失文化財の所有権は、国際問題だが、中国はとりわけ「自分たちは被害者だ」という意識が強い。中国の国土で起きた戦争や侵略、また列強各国は中国に特権的な地位を認めさせた。その際の略奪、違法な持ち出しによって、貴重な歴史遺産を失ったとの主張だ。 奪われた歴史的文化財を取り戻す、ということは、今日の中国の国力の証明にもなる。同時に、国民に、中国の歴史の輝かしさ、中華民族が培ってきた能力の高さを知らしめることにもなる。これも、習近平指導部が強く推し進める愛国主義教育の一つと言ってよいだろう。 だから、冒頭で紹介したように、主要7か国(G7)の一つであるイタリアから、文物が返還され、イタリアの国家元首とそれらを鑑賞するというのは、国民に向けたアピールになるわけだ。 ■流失文化財を保護する国際的な枠組み 文化財不法輸出入等禁止条約という国際条約がある。盗難、盗掘、略奪された文化財の輸入禁止、もともと文化財があった国への返還・回復などを定めている。対象は、例として、考古学上の発掘品や遺跡の一部、また民族的・美術的価値のあるものという定義。条約は1972年に発効し、日本は2002年に批准している。