樫本大進インタビュー「ピアニストがしっかり主張してきてくれる刺激こそが、良い音楽を生む」
世界で活躍するソリストであり、ベルリンフィルの第一コンサートマスターでもある樫本大進と、2005年ショパン国際ピアノコンクールの覇者で“ショパンの再来”と呼ばれたピアニスト、ラファウ・ブレハッチ。来る12月、そんな二人のスターによる全国ツアーが行われる。どちらのファンもこの“奇跡のデュオ”を楽しみにしていることだろう。 【画像】その他の写真 「そのキャッチコピーは僕が考えたわけではありませんが(笑)、世界のトップを走る天才的ピアニストとご一緒できることになり、とにかく楽しみです。ラファウのことは僕も昔から名前はよく知っていましたから」 曲目は、樫本が昔から弾き続けてきたものばかり。前半はモーツァルト、ベートーヴェンという古典派、そして後半は雰囲気を変え、ドビュッシー、武満、フランクと、ボリュームたっぷりだ。 「自分ではなかなか組まないプログラムですが、ラファウとやりとりをしている中でこういうアイデアが生まれて嬉しいですね。前半は、ヴァイオリン、ピアノの両方にとって基本中の基本といえる大切な作曲家。モーツァルトでは、大人になって失った純粋な心を取り戻さなくてはいけませんし、ベートーヴェンでは逆に人生経験を重ねた人間ならではの部分を出しながら、裏をついた表現も求められます。ラファウが一緒にチャレンジしようといってくれたので、ぜひ受けたいという気持ちが高まりました」 一方の後半には「基本を超えたところにある雰囲気や匂い、遊びが大切になるフランス系レパートリー」が並ぶ。なかでもフランクのヴァイオリン・ソナタは、ブレハッチからぜひにと提案され、最初に決まったという。 「ヨーロッパ的な情熱がまっすぐに出て、フランクらしい魅力が詰まっている作品です。誰もが知る大きな存在ですが、ラファウからどんな新たなインスピレーションを得て演奏することになるのか、期待しています」 武満の「悲歌」を日本で披露するのは、樫本が初めてのレコーディングを行った25年前以来と、久しぶりとなる。 「僕が日本にいたのは幼稚園までで、以後はずっと海外なので、武満の生きた昭和の日本について、実際の思い出はほとんどないのです。最近流行っている“昭和レトロ”、好きなんですけれどね! それもあって自分は日本のことがわかっていないと思うこともあるのですが、でもやはり、歳を重ねてますます“日本はふるさとだ”という感覚が強くなってきました。武満の音楽は、フランスに影響を受けた部分と和の雰囲気が融合していて、僕にとってとても心地よいのです。ラファウも楽しみにしてくれているようなので、嬉しいですね」 樫本のステージといえば、自らが弾いていない間、ピアニストの音に聴き入っている様子が印象的だ。 「上手だなぁ、きれいで良いなぁと思っているので、あのようになります(笑)。僕は幸いソリストとしても活動しているピアニストとばかり共演しているので、いわゆる日本語の“伴奏”としてサポートだけしてもらっている感覚になることは、まったくありません。しっかり主張してくれるほうが、刺激になって好きです。 今回もラファウといろいろなやりとりが交わされ、曲によってお互いに役割を全く変えていくことになると思うので、そこに注目しながら聴いていただきたいですね」 子供の頃から現在まで、運に恵まれ、自然体を貫いてここまで来られたという。 「僕は本当にツイているなと思うんですよ。自分で将来のプランを難しく考えることなく、その都度やりたいと思ったことをやらせてもらうことができた。周囲にも助けられ、本当に幸せです」 これからも自分が自然だと感じるものに向き合い続けていきたいという樫本。ブレハッチもとても自然体のピアニストなので、“自然体同士の奇跡のマッチング”が実現しそうだ。 取材・文:高坂 はる香 樫本大進<プレミアム室内楽シリーズ>vol.3 樫本大進&ラファウ・ブレハッチ デュオ・リサイタル 12月11日(水) 19:00開演 札幌コンサートホールKitara 大ホール (北海道) 12月14日(土) 19:00開演 ミューザ川崎シンフォニーホール (神奈川県) 12月19日(木) 19:00開演 サントリーホール 大ホール (東京都) 12月20日(金) 18:45開演 愛知県芸術劇場 コンサートホール (愛知県) 12月21日(土) 14:00開演 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール (兵庫県)