「レアメタル・シャーク」をブラジル沖で発見、最新報告 高まる海洋汚染の懸念
レアメタルはサメにどのような影響を与えるのか?
これらの元素が野生生物に与える影響は、特にサメに関してはよくわかっていない。 アミヨ氏はカナダ北極圏の魚の体内から高濃度のレアメタルを発見した実績があり、サメにとっての致死量は今回検出された濃度よりはるかに高いと考えている。それでも、アミヨ氏は「データ不足」の汚染物質に関する今回のような研究を歓迎している。 「これらは本当に研究が必要な元素です。なぜならガイドラインが求められているからです」とアミヨ氏は話す。「これは文字通り、1つの空白を埋める研究です」 たとえこれらの元素がサメの命を奪わないとしても、ウォズニック氏とボンド氏は悪影響を心配している。ウォズニック氏によれば、特にチタンは肝臓に酸化ストレスを与える可能性があるという。サメがストレスに対処するためにエネルギーを使えば、狩猟や繁殖の能力に影響が出るかもしれない。 チタンについては、「ほかのレアメタルより理解が進んでいる」とボンド氏は述べている。チタンは腎臓や血液脳関門に「とても悪い影響」を与える可能性がある。ボンド氏によれば、血液から脳に酸素が供給されにくくなると、見当識障害などを引き起こし、狩猟の能力が低下する恐れがあるという。 チタンについてわかっていることは、悪いことばかりではない。今回の研究では、サメの歯に「極めて高濃度」のチタンが含まれていることがわかった。ただし、「これがチタンを除去する方法なのかもしれない」と、ウォズニック氏は考えている。サメはほかの動物より頻繁に歯が生え替わるからだ。
レアメタルの深海発掘がもたらすリスク
ブラジルではサメが食用になっており、子どもたちもしばしばサメを食べる。理論的には、これらのレアメタルが人の体内に入ることになる。「必須栄養素でない元素はすべて、人に害を及ぼす可能性があります」とウォズニック氏は話す。また、哺乳類は通常、魚類より脂肪が多く、人はサメよりレアメタルの毒性に敏感かもしれない。 今回の研究では、人が食べる可能性が最も高いイタチザメの筋肉からは、「人に害を及ぼすほど高濃度の元素は検出されていない」とアミヨ氏は考えている。ただし、レアメタルの鉱区から近い場所に暮らすサメの体内には、もっと高濃度の元素が含まれているかもしれない。「食用に問題が生じるとしたら、レアメタルの供給源が近い場合でしょう」 ウォズニック氏らは、サメなどの海洋生物が健康を維持できる元素の濃度に関する規制ガイドラインが存在しないことを懸念している。 レアメタルとそれを必要とするデバイスが浸透するにつれて、この問題はますます深刻になっていくだろう。ボンド氏もまた、海底に関する規則を制定する国際海底機構が現在、レアメタルの採掘を含む深海採掘の許可を検討していることを危惧している。 「自然保護活動家として、私たちはこの件に激しく抗議しています」とボンド氏は述べ、レアメタルの深海採掘はサメをはじめとする海洋生物の汚染問題を悪化させる恐れがあると警鐘を鳴らした。
文=Joshua Rapp Learn/訳=米井香織