低視聴率で苦しむ『おむすび』だが、見どころは“本来の姿”を取り戻した橋本環奈にアリ
こういう生身の橋本環奈を待っていたんだ!
そんな疑問符を身勝手に浮かべるとき、リアリズム映画時代への懐かしさにある程度応えてくれるのが、『おむすび』なのである。ぼくらはこういう生身の橋本環奈を待っていたんだ(!)。実際、本作の橋本自体が物語の序章となる第1週から第2週にかけて、待つことに徹する存在として描かれている。 甲子園での優勝を目指す四ツ木翔也(佐野勇斗)や書道部の先輩で書道家を志す風見亮介(松本怜生)だけでない。元カリスマ総代だった米田歩(仲里依紗)を姉に持つことから嫌々加入させられた博多のギャル連合ハギャレンのメンバーだってそれぞれ夢を持っている。なのに自分ひとりこれといって夢がない。等身大のもやもやを表現する橋本は、どこか孤独に迷いながらも洗い上げられたようなリアリズムを役に込める。 第2週第7回、ハギャレンのメンバーのひとりでクラスメイトである柚木理沙(田村芽実)と出かける道中、ギャル服に着替えるために天神地下街のトイレに入った理沙を結がただ待つ場面がある。この場面での待ち時間は「20分後」という字幕が表示されてほんの2カットの時間経過で描かれてしまうが、ただベンチに座って時間をつぶすだけの結の待ち時間をもっとじっくり橋本に演じさせたら、これはなかなかいい呼び水になるかと思ったけれど。
本来の姿を取り戻した橋本環奈が見たい
でも朝ドラは1回15分と制限がある。待つ場面を演じる橋本環奈ばかりを写しているわけにもいかない。すると第9回でもう一度、結が誰かを待つ場面が用意される。やっぱり待つ場面によって橋本から生身の演技を引き出そうとしているとしか思えない。 相手は翔也。結と翔也は必ず海辺で鉢合わせる。翔也が結の祖父・米田永吉(松平健)からおまけでもらったトマトのお礼を一度取りに帰る場面。今度こそじっくり待つ場面が演出されるのかと思いきや、結の待ち時間は全然描かれず、堤防を写したワンショットで時間経過が示される。続くカットでさっさと自転車に乗って帰宅しようとする。 でも堤防のカットから引きの画面になり、下手から自転車に乗る橋本がさっとフレームインするタイミングがちょっといい。ここには過去に彼女が出演してきたリアリズム映画の空気感が確実に宿っている。引きの画面中央では二艘の船が波風でゆれ、奥からは翔也が走ってくる。いいじゃないか、いいじゃないか(!)。第4週第19回で結がハギャレンによるパラパラを披露する糸島フェスティバルに出演する。父・米田聖人(北村有起哉)にバレるかバレないか、ギャルメイクを施した結が焦る場面がある。橋本はギャルメイクという厚い仮面上にきちんと現実味のある芝居を重ねていた。『セーラー服と機関銃-卒業-』インタビューでは「いろんな顔が見られるキャラクターになったと思います」と語っていた(『キネマ旬報』2016年3月上旬号より引用)。本来の姿を取り戻した橋本環奈が早く見たい。 <TEXT/加賀谷健> 【加賀谷健】 コラムニスト・音楽企画プロデューサー。クラシック音楽を専門とするプロダクションでR&B部門を立ち上げ、企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆。最近では解説番組出演の他、ドラマの脚本を書いている。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu
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