「開かずの扉」が開いた

さらに、袴田さんについて「捏造された疑いのある証拠によって有罪とされ、死刑の恐怖の下で拘束されてきた」と指摘。「これ以上拘束を続けることは耐え難いほど正義に反する」として刑の執行と拘置を停止し、彼の釈放を認めたのだ。 死刑囚の再審開始決定で、拘置停止が認められたのは初めてのことだった。だが、「開かずの扉」といわれる再審への道程はその後も困難を極めた。 証拠を捏造した疑いがあると裁判所から断じられた検察側は、再審開始決定を不服として即時抗告。18年、東京高裁は、静岡地裁の再審開始を取り消す決定を下した。 この東京高裁の決定に対し、今度は袴田さんの弁護団が特別抗告を行い、20年、最高裁は、高裁の決定を取り消し、審理のやり直しを命じた。その結果、23年3月に東京高裁で再審開始が確定。遂に「開かずの扉」が開き、同年10月から静岡地裁で再審公判が始まった。 そもそも再審は刑事訴訟法上、「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」があった場合にのみ認められる。逆に言えば、再審公判では、有罪を立証する決定的な証拠が示されない限り、無罪判決が言い渡される公算が大きいのだ。 しかし、検察側は、7カ月に及んだ再審公判においても、その決定的な証拠を示せなかった。にもかかわらず、結審となった24年5月22日、袴田さんに対し再び死刑を求刑したのである。 判決は9月26日午後2時より言い渡されるが、検察側は、再審公判でも控訴することができる(控訴期限は10月10日)。このため、弁護団は静岡地検に対し、袴田さんの年齢や心身の状態などを踏まえ、「人道的な見地から控訴することは正義に反する。58年間もの長期間の審理を終結させる決断をすべき」と求めている。 はたして検察は控訴するのか。後編記事『【袴田事件】死刑判決後、34年も極限状態に留め置かれて…そして袴田巌さんは「神になった」』に続きます。