待ってる場合じゃないやん、攻めないと!――絵本プロデュースにも乗り出したつんく♂が求め続ける「あと一個」
絵本を異例のYouTube先行公開
今年6月、初の絵本プロデュースとなる『ねぇ、ママ?僕のお願い!』(双葉社)を出版した。発売に先駆けて公開した動画では、つんく♂の9歳の次女が主人公の少年の声をあてている。 「YouTubeやKindleで内容が先に公開されたとしても、絵本自体は手に持ちたい温かみを感じるものだと思うんです。それも前提にあっての公開でしたね。主婦のみなさんはステイホームなどの事情もあって家事などで相当忙しく、例え動画であっても音声のないものをじっくり見てる余裕はないだろうから、声入りのものが作りたくなりました。十分な宣伝やプロモーションができないコロナ禍のなか、単に発売を先送りしじっと待つだけでなく、なんとかしていち早くみんなに見てもらいたい。うん、やるしかない! そう思いました。不幸中の幸いというか、子どもらも自宅待機で時間もあったので、絵本の朗読レコーディングも機嫌よく手伝ってくれました。我が家族にとっても良い思い出となるでしょう」 また、BGMだけが入ったバージョンの動画も無料公開された。その素材を使って、自分で声をあてた新たな「読んでみた」動画が多数アップロードされるという広がりも見せている。その中にはモーニング娘。の現メンバーである譜久村聖や石田亜佑美、元メンバーの鞘師里保などの姿もあった。 「譜久村も石田も鞘師もそれぞれの個性がよく出てて、ファンにとっても、歌の時よりもその本人だけをじっくり聴くことができて、もしかしたら刺激的だったのかもしれませんね。僕も楽しめました」
芸能界の序列は全然変わっていない
新しいメディアも活用し、常に新たな領域への挑戦を続けているつんく♂。そのたゆまぬモチベーションは、いったいどこから湧いてくるのだろうか。 「……あと一個、という気持ちがずっとどこかにあって。まあいろいろ結果を出してきてはみたけど、なんかあと一個ないかなあって、この20年ぐらいずっと思ってる感じですね。なので、いろいろやってみることにしました。去年始めたオンラインサロンからもたくさんの学びがあります。今は『中2がヒロインの映画』の企画でヒロインを募集中です」 実はつんく♂は、喉頭がんで声さえ失わなければ、アニソンシンガーに転向したいと考えていたともいう。 「今、サブスクで懐かしのアニメを見ていても、毎回主題歌とエンディングが流れてきます。連続で次々見てると『また?』って思うくらいですが、その分、確実に刷り込まれていく。そんな曲が歌えるならば、そんな中年もいいなあ、と思ってた時期もありましたね」 では、これまでの歩みはつんく♂自身からはどう見えるのだろうか。 「病気と今も向かい合ってるなか、ビジネス的に大きなミステイクなく来れたので今もお仕事ができてるんだなぁとは思います。ただ、アメリカの成功者は本当にすごいです。そう思えば、自分が『大成功した』というレベルじゃないのは明らかですし、もうちょっとスマートなやり方があったようにも思ったりはします。まあ、このご時世、仕事があるだけ御の字です(笑)」 そう笑うつんく♂は、一方で、芸能界の状況を冷静に見て「次」を探している。 「芸能界で30年ぐらいやってきたけど、その中の序列みたいなものは、上京当時となんら変わりません。みなさんお元気ですから(笑)。30年前の大先輩は今も大先輩。なので、50歳を超えたのにまだまだ新人気分です。『これも序列よな』とか自分でも納得してやってきましたが、僕も病気をして『こりゃぁ、待ってる場合じゃないやん! 攻めないと』と、今頃火がついております。人生に遅いなんてない! 思い立ったが吉日ですね」 --- つんく♂ 1968年10月29日生まれ、大阪府出身。音楽家・エンターテインメントプロデューサー、作詞家、作曲家、総合エンターテインメント株式会社<TNX株式会社>代表取締役社長。2015年、 「うまれてきてくれて ありがとう」で第57回日本レコード大賞作曲賞受賞。著書に『だから、生きる。』(新潮社)など。