人類の歴史は「所有からの解放」へ。大阪・関西万博オランダパビリオンの建築家が説く、サーキュラーエコノミーへの道
「サステイナブルなビジネスは儲からない」――日本のビジネスパーソンからは、よくこんな声が聞こえてくる。大阪・関西万博のオランダパビリオンを設計した建築家であり、思想家でもあるトーマス・ラウ氏は、サステイナブルが利益を生み出しにくいだけでなく、最終的にはゴミを増やす現状の経済システムを最適化しているに過ぎないと指摘する。 同氏が次のステージとして提唱しているのは、人類を所有から解放するサーキュラーエコノミーへの移行だ。それは、現状の経済システムを根底から変え、ビジネスに金銭的なインセンティブと持続性をもたらす。世界の政財界のリーダーが耳を傾ける同氏の構想について聞いた。
「すべては一時的」という考えから生まれた「サービスとしての製品」
ラウ氏は10歳のとき、身体に大やけどを負った経験がある。「1年間水ばかり飲んで、激痛に耐える日々のなかで、僕は死ぬのかもしれない、と思いました。そのとき、『ちょっと待てよ。この世のすべては一時的だ』と考え始めたのです」(ラウ氏、以下カッコ内同様)。 それから何十年の月日を経て、ラウ氏は自らの建築事務所「RAU architechts」を設立し、2010年にオフィスを改善する時期を迎えた。その時に再び彼の頭を占めたのは、「すべては一時的にしか存在しない」という考えだった。「この事務所がここを去るとき、廃棄物の山を残さないようにするには、どうすればいいのだろうか?」 オフィスの照明はフィリップスが提供することになっていたが、ラウ氏は製品を買わずに明かりを手に入れるにはどうすればいいかを考えた。そして、ランプをメーカーから買って「所有する」のではなく「借りる」ことで、「明かりというパフォーマンス」に代金を支払うというモデルが生まれた。「XルーメンでX時間分の照明サービス」に対し、ユーザーは月額でサブスクリプション代を払うのだ。 製品はフィリップスの所有。電気代はフィリップスの負担。こうすることで、メーカー側はいかに省エネで長持ちするランプを作るかに注力するようになる。また、ランプが故障した際の修理もメーカー負担になるため、簡単に修理できるような構造も考案された。このビジネスモデルでは、事前に製品のパフォーマンスが設計されるため、メーカーも無駄を省けるだけでなく、安定的なキャッシュフローを得ることができる。 「サービスとしての製品(Product as a Service)」として知られるこの秀逸なモデルは、ラウ氏が立ち上げたコンサルティング会社「TURNTOO(ターントゥ)」によって開発され、サーキュラーなビジネスモデルとして大いに注目された。ラウ氏は家電やアパレルなど多くのメーカーに助言を与え、同モデルから数々の新しいサービスが生まれてきた。