東京藝大・箭内道彦教授に聞く 生成AI時代、広告クリエーターはどう受け止める?
技術による“脱職人化”の流れ
――一方で、箭内教授がいる広告業界をはじめ、クリエイティブの仕事面でも生成AIを活用する動きも進んでいます。生成AIによる業務効率化についてどう思いますか。 AIに限らず、仕事は30年前と比べたら相当楽になりました。例えばCMの編集にしても、合成技術が進んでいなかった時代には、素材の切り抜きの作業や、合成をなじませる作業に何時間もかかっていました。今ではPCですぐにできてしまいますから、技術の進歩には感謝しています。 職人気質じゃないクリエイターが登場し、活躍できるようになったのもそのテクノロジーのおかげです。例えば50年前は、映画監督は誰にでもできる職業じゃありませんでした。自分の映画を撮りたいと思ったら、先輩のもとで長く学び、何年もの修業を重ねて得るさまざまな技術も磨かなければなりませんでした。 しかし今では、スマートフォン一つでも映画を撮れます。プロフェッショナルとしての修業をせずとも、その人のアイデアや物事の動かし方さえあれば、映画を作ることができるようになった。それは、AI以前の映像編集技術の進化のたまものなのです。映像に限って見ても、テクノロジーがチャンスを増やしてくれていると思います。 生成AIも同様です。今ではAIがチャンスを奪っているという見方もあります。AIをうまく乗りこなすことで、作業の時間が短く済み、身体を休めることができたり、家族と過ごす時間が増えたりすることは素晴らしいことだと思います。 ――生成AIをクリエイティブ業務で使うことによって、クリエイターとしての尊厳に関わってくるような部分はないのでしょうか。 広告代理店のコピーライティングにしても、もともと人間が生成AI的にやっていた部分はあるんですよ。昔のコピー年鑑を見て、商品名だけ入れ替えてコピーを書くことは当たり前でした。CMも同様で、商品だけ変えて多少のアレンジとともに成立させるようなCMは、自覚的にも無自覚的にも多くのプランナーがやってきたことなのだと思います。 どこかで見たことがあるものと、どこかで見たことがあるものをミックスして、新しい企画を作りましたみたいな作業は、生成AI以前からずっと人間がやってきました。それがこれからは、そういう罪な部分をAIに担わせるようになるのではないかと思います。そう考えると、生成AIの出力物を見ていると、AIのように仕事をしてきた自分たちが反省すべきタイミングでもあると思いますね。 (河嶌太郎、アイティメディア今野大一)
ITmedia ビジネスオンライン