孤独死のリアル 「高齢者にはおカネをかけたくない」?
今年1~6月に自宅で死亡した1人暮らしの人は全国で3万7227人(暫定値)いて、うち65歳以上の高齢者は2万8330人だったとする調査結果を、8月に警察庁が公表しました。「孤独死のリアル」の著書がある、淑徳大学教授の結城康博さんに聞きました。【聞き手・須藤孝】 【写真】ビル街の男性 ◇ ◇ ◇ ◇ ――孤独死自体は当たり前になっています。 ◆これだけ高齢者が増えているのですから、自宅で、一人で亡くなること自体は当然のことです。病院のベッドで亡くなるより幸せかもしれません。 警察庁の統計には1日以内に発見された人も含まれていますが、孤独死と考えなくてよいと思います。2、3日で見つかる人も、誰かが気にかけていて、関係があるから見つかっているのですから、孤立しているとはいえません。実際に問題になるのは4日目以降ではないでしょうか。 ◇もっと予算を ――孤独死は増えています。 ◆孤独・孤立対策の担当相ができましたし、警察庁が調査をしたことは良かったと思います。しかし、大きな予算を投入した対策はほとんどありません。各自治体での取り組みはありますが、自治体には財政状況に差もあります。国がもっと予算をかけてやるべきです。 2035年には団塊の世代がみな85歳以上になります。孤独死がさらに増えるのは確実です。 ――本格的な対策にはおカネがかかります。 ◆35年から40年にかけて、日本の高齢者をめぐる社会保障は大きな危機を迎えます。命の問題である点では安全保障と同じです。しかも危機は確実に訪れます。 高齢者にはおカネをかけたくないのかもしれません。しかし、大家さんを対象にした孤独死保険のようなものができています。遺品整理の業者も増えています。市場経済で賄っているわけですが、全体を考えれば、公的なサービスとして担った方が、結局はコストがかからないと思います。 ◇公務員が担う役割 ――地域社会への期待があります。 ◆孤独死のような個人の領域に踏み込む時には、公務員が責任を持ってやるべきです。地域の役割はありますが、アンテナです。一日中明かりがついているなど、兆候を知らせることです。できるのはそこまでです。 いまは踏み込むところまで地域でやれという話になっています。おかしな話ですが、孤独死が起きると民生委員が悪いと批判され、民生委員のなり手がいなくなる悪循環が起きています。 ――公務員の力が必要になります。 ◆1人暮らしの高齢者が増えていく社会では公務員の役割をもっと増やすべきです。民間の役割はありますが、公務員がしっかりいないと民間も活動できません。 公務員を増やすことは、地方の活性化にもなります。道路を造っても地方は豊かになりませんが、高齢者をみる正規の公務員を増やせば、若者の流出を減らせます。 ――これまで死は個人的なことでした。 ◆家族ができないのであれば、国家がやらなければなりません。介護も同じですが、個人の領域だった部分に公共サービスが必要になっています。 支えられる側の力も必要です。個人の領域に入るには本人の協力が必要だからです。たいしたことではありません。民生委員が来たら会う、という程度のことです。結局、人は一人では生きていけません。散骨でもよいのですが、「墓に入るまで」が、その人が果たすべき社会的な責任だと、私は思います。(政治プレミア)