元巨人左腕・池田駿が難関国家試験に合格 野球は「戦士」公認会計士は「魔法使い」?
【寮で得意のピアノリサイタル】 ーー高校卒業後は当初目指していた筑波大学ではなく、専修大学へ進学されました。 新潟明訓の野球部の監督から「せっかく甲子園に出たんだから、野球で専修大に話をつけておいたから」って言われて(笑)。専修大でも教職課程をとっておこうと申し込みをしたんですが、野球の関係で授業がどうしても受けられなくて、単位がとれませんでした。その分、野球で頑張ってみようかなというふうに思いましたね。 ーー大学時代の野球はどうでしたか? 大学4年間では、大した成績を残していないんです。手術もして、正直、なんでこんな痛い思いをしてまで野球をやっているんだろうと思った時期もあって......。でも、大学でいろんな方々とつながれたのは本当によかったです。 ーーどんな人間関係だったんでしょう? 大学入学時は、4年生が大人に見えて、すごく怖かったんですよ(笑)。でも、人間的にもすごいなと思う方々がいて、こういう大人になりたいなと思えました。 ーー寮生活はいかがでしたか? 寮の部屋にピアノを置いていたんですよ。ピアノは中学の時に独学で始めて、合唱コンクールや卒業式で歌ったことはなくて、ずっとピアノでした。 ーーちなみに、プライベートではどんな曲を弾くんですか? クラシックだとショパンやベートーヴェンが好きです。自分で曲もつくったりもしましたね。大学の時は、先輩や同級生が「ピアノ、聞かせてくれない?」と、自分の部屋でリサイタルみたいなこともやりました(笑)。独学だから、完全に自己満足の世界なんですけどね。 ーーなんだか野球部っぽくない光景ですね(笑)。 大学卒業後、ヤマハに野球で入社しましたが、その面接の時に社長の前でピアノを弾いたんですよ。その時は、ピアノをやっていたことにちょっと運命を感じましたね(笑)。
【巨人で本当にやっていけるのか...】 ーープロ野球を意識し始めたのはヤマハに入ってからですか? そうですね。社会人になってからプロへの気持ちが出てきました。ヤマハからは、僕が大学1年とか2年生くらいの早い段階で「卒業後はうちで野球しないか」と、声をかけてもらっていたんです。 ーーそして、ヤマハ2年目に社会人野球日本選手権で優勝。池田さんはMVPを獲得し、プロ入りが現実味を帯びてきました。 ヤマハに入っていなかったら、プロ野球どころか、大学で野球をやめていたかもしれません。大学時代は、本当につらいと思ったことが何回もありますが、ヤマハから声をかけてもらって、僕のことを見てくれている人がいるんだ、と。もうちょっと頑張ろうかなと思えました。 ーー2016年のドラフトで読売ジャイアンツから4位指名を受けました。指名時はどんな気持ちでしたか? ドラフト前に、ヤマハからは「プロに行ってほしいけど、ドラフト5位以下だったら、大事な戦力なので残ってもらいたい」と言っていただいていました。僕自身、4位以上は難しいだろうと思っていたんです。 そこでいざ、巨人から4位指名で呼ばれて......なんかもう大丈夫かなという気持ちになっちゃって、いろんな感情が出てきました。もちろんうれしいんですけど、それより巨人で本当にやっていけるのかという心配のほうがありました。 ーー巨人では1年目から、中継ぎ投手として33試合に登板の活躍! 振り返ると、どんなシーズンでしたか? 正直、プロ野球は今、データ野球になっているので、たぶん、1年目であれだけ投げられたのは、ただ相手のデータ不足だと僕は思っています。2年目は同じことやってもやっぱりすごく打たれるわけで。そのデータを超える自分の成長があればよかっただけの話ですけど、その成長はできなかった。1年目はビギナーズラック的なところが多々あったのかなと。 ーー2020年のプロ4年目のシーズン途中で、巨人から楽天へトレードとなりました。どう受け取りましたか? 前年のプロ3年目のシーズンから、自分をドラフトでとってくれた高橋由伸監督から原辰徳監督に代わって、使ってもらえなくなってきていて、そろそろ危ないんじゃないかなと思っていました。そんな矢先でのトレードだったので、ある意味、環境も変えられますし、気持ちもコロッと変わって、いいタイミングで出してもらえたなと思いました。 ーー巨人と楽天の雰囲気は違いましたか? 巨人は1回負けると、チームの雰囲気がお葬式になるんですよ。それがいいとか悪いとかじゃなくて、やっぱり常勝軍団じゃなければいけない感じがすごくありました。一方、楽天は全然そんなことはなくて。同じプロ野球でも、カラーが全然違いました。僕は、楽天のほうが合っていたかな、と。 ーー後編では、プロ野球選手から公認会計士を目指していく経緯を詳しく伺います。 後編<元プロ野球・池田駿はシーズン中ロッカーでも試験勉強 公認会計士合格後のキャリアを語る>を読む 撮影協力/CPA会計学院 【プロフィール】池田 駿 いけだ・しゅん 1992年、新潟県生まれ。新潟明訓高では投手として夏の甲子園8強進出し、日米親善高校野球の全日本選抜チームに選出される。その後、専修大を経て、2015年にヤマハ入社。2016年の社会人日本選手権で優勝。2016年ドラフト4位で巨人入り。1年目に33試合に登板。2020年途中に楽天へ移籍し、2021年シーズン後に現役引退。2023年、公認会計士試験に合格。現在は、公認会計士資格スクール「CPA会計学院」で講師を務めている。
門脇正法●取材・文 text by Kadowaki Masanori