インド映画興収1位タミル語映画のヒットメーカーが手掛けるガールズエンパワーメント超大作『JAWAN/ジャワーン』
ガールズエンパワーメント映画としての側面
脚本が巧妙であるからこそ、逆に目立ってしまう一部設定上の不具合や消化不良な部分、ツッコミどころも多々あるが、それを熱量で振り切っているのも大衆向けインド映画らしさがある。 ただ、今作で一番重要視してもらいたい点は、ガールズエンパワーメント映画としての側面である。アトリーは『ビギル 勝利のホイッスル』のなかでも女子サッカーチームとコーチの絆を描いていたが、テーマとしては今作も共通している。 あくまでシャー・ルク主演ではあり、インドの社会問題への風刺も含まれていたりするが、主題としては、女性たちの物語なのだ。ナヤンターラ、プリヤーマニ、サーニヤー・マルホートラ、サンジータ・バタチャリヤ、ジャリィといった、幅広い年齢層の女優やアーティストが出演しているし、演じている女優の特徴とキャラクター造形をリンクさせている部分もあるのだろう。 今作のハイライトでもあり、アトリー本人がサプライズ登場する「Zinda Banda」のダンスシーンでは、プリヤーマニとサーニヤーなどもダンスシーンにあまり登場しない女優が全力ダンスしているのだが、プリヤーマニとシャー・ルクのコンビで思い出されるのは、やはり『チェンナイ・エクスプレス~愛と勇気のヒーロー参上~』の「One Two Three Four」であり、一部オマージュされているように感じる。 作中で何度か使用されているタイトルトラックもインド・ヒップホップ界のゴッドマザーで、インドにおけるフィメールラッパーの始祖的存在でもあるラジャ・クマリによるもので、力強さを感じる。 つまり全編を通して、様々な女性の強さを打ち出した作品であり、そのナビゲート役としてシャー・ルクの存在がある。 映画公式曲ではないが、サンジータとジャリィは、シンガーソングライターでもあることから、撮影の裏で、女性同士の友情や絆をテーマとした曲「Main Character Energy」を制作していた。それもあわせて聴いてもらうと、より解像度が増すはずだ。ミュージックビデオでは、今作の微笑ましい撮影舞台裏もチラっと見ることができる。 キャラクターの解像度でいうと、ナヤンターラの場合も、11月18日からベストタイミングで、Netflixのドキュメンタリー映画『ナヤンターラー: ビヨンド・ザ・フェアリーテイル』(Netflixはナヤンターラー表記)が配信されている。これを観ると、レディ・スーパースターと呼ばれているナヤンターラがインド映画界において、いかに影響力をもった女優であり、どうして強い女性の象徴なのかがわかるはずだ。 【ストーリー】 包帯だらけの謎の男(シャー・ルク・カーン)と怪しい6人の女性たち。彼らは地下鉄をジャックし乗客を人質にとり、政府に対し4千億ルピーを要求する。実は、謎の男はこの列車に乗っている武器商人カリ(ヴィジャイ・セードゥパティ)の娘を使って、カリから身代金を強奪することが目的だったのだ。警察は身代金が振り込まれた口座を凍結しようとしたが、すでにその金は70万人の貧しい人々へ配られていた。混乱に乗じて逃げる謎の男と女性たちが向かったのは、なぜか女子刑務所だった。彼らは悪なのか、それとも正義なのか?果たして、彼らの真の目的は一体!? 監督:アトリー 出演:シャー・ルク・カーン、ナヤンターラ、ディーピカー・パードゥコーン、ヴィジャイ・セードゥパティ、プリヤーマニ、サンジータ・バタチャリヤ、ジャリィほか 2023年/インド/ヒンディー語/171分/シネスコ/5.1ch/字幕翻訳:藤井美佳/PG-12 配給:ツイン (C)2023 All rights reserved with Red Chillies Entertainments Pvt Ltd 11月29日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー
バフィー吉川