「プロ野球90年」漫画家かわぐちかいじさんが振り返る「江夏の21球」 「自分がもし古葉監督だったら…」
江夏もね、それぐらいのことは分かるんですよ。これは公式戦の1試合じゃないというのは分かるんだけど、やっぱり「裏切られた」という気持ちがどこかにあって、そこで離反する。その後カープのユニホームを脱ぎますからね。その江夏の気持ちも分かる。 ▽古葉監督のマネジメント 組織としてチームを見ていくと、どういうリーダー論が一番ふさわしいかを考えますよね。それが出てきたのは、野村克也さんが監督になってヤクルトが強くなったあたりじゃないかな。監督の戦略がチームを強くもし、弱くもするというのが伝わってきた。野村さんはデータを土台にして、そこから先は自分の頭で考えるというやり方で、実際にそれでヤクルトが強くなった。 僕は近鉄の監督だった西本幸雄さんのファンでもあった。たたき上げの隊長みたいな感じ。「江夏の21球」では近鉄が勝っても良かったなという気持ちもどこかにあった。古葉さんは選手としての成績は一流ではないけど、「目利きの古葉」みたいな感じがある。目の付け所、選手への接し方によって、チームが相当力を発揮できた。ベンチでふんぞり返っているのではなくて、じーっと見ている感じ。神経の細やかさがあって、選手をマネジメントしている感じが伝わってきた。江夏のことも人一倍分かっていたと思う。それでも勝つための判断をした。度胸があるなと。 ▽1対1の魅力
超高校級のバッテリーがそれぞれ別の球団に進んで活躍する作品「バッテリー」は、江夏を参考にした。あれだけちゃんと自分の投球を解説できる人っていないんですよ。本当に頭がいいんだなという感じがした。言語化する能力の高さが、選手としての力を保証している。野村さんもそうだった。 「バッテリー」の主人公の海部は、1点でも失ったら引退するという設定。それぐらいエキセントリックな性格が投手には必要だというのを描きたかった。自分が一番という生意気さ、傲慢さが投手にとっての一番の武器だというのを、海部というキャラクターに託した感じ。まあ、江夏の影響もかなり大きいかな。 でもドジャースの山本由伸なんかを見ていると、昔の投手と違ってさわやかな感じがする。そんなに大きなフォームじゃないけど、すごく回転のいい球がいっている。自分が見てきた剛腕投手と違い、柳のようにしなやかで、気合を込めてたたきのめすというイメージではない。それが逆にすごく強さを感じさせる。彼に聞いてみたいね。江夏をどう思うかと。