「八百万の神々」入門 第5回:もっと知りたい日本の神様:人間に近い存在、「付き合い方」は人それぞれ
不思議な神社
JS さいたま市の調(つき)神社は少し変わっていて、鳥居がありません。境内にはたくさんのウサギの像があります。 平藤 「つきのみや」の愛称で親しまれている神社ですね。祭神はアマテラスとスサノオ、食物神のトヨウケビメノカミですが、「つき」を「月」と結び付けて、ウサギが神の使いとして飾られているのでしょう。 月の神(ツクヨミ)の神使(しんし)はウサギです。ただ、ツクヨミは神話の中に名前が出てくるだけで活躍しないので、祭っている神社は多くありません。オオクニヌシを祭る出雲大社は近年、境内にウサギの像が増えています。オオクニヌシが救った因幡(いなば)のシロウサギの神話が由来だと思います。 JS 平藤さんが特に面白いと思う神社はありますか? 平藤 宮崎県日南市の山中に、全国で唯一、海幸彦(ウミサチヒコ)を祭る潮嶽(うしおだけ)神社があります。そもそも海で獲物を捕って暮らす神様なのに山間にあるのが不思議ですが、弟・山幸彦(ヤマサチヒコ)との争いに敗れて、この地に流れ着いたという地域の伝承があります。祠(ほこら)は小さいですが、神社は大きくて立派であるより、小さくても、掃除などが行き届き、清潔に保たれていることに意味があると思います。
海幸彦と山幸彦
高天原から、地上の支配者として下ったアマテラスの孫・ホノニニギは、桜の花のような美女・コノハナサクヤヒメに一目ぼれして、結ばれる。ホデリ(海幸彦)とホオリ(山幸彦)は二人の息子。山で獲物を捕る山幸彦は、ある日、兄の海幸彦にお互いの道具を交換しようと提案。海幸彦はしぶしぶ交換に応じる。ところが、山幸彦は兄の釣り針を海でなくしてしまう。兄は弟を許さず、釣り針を探しに再び海に出た山幸彦は、海神の娘と恋に落ち、3年間を共にする。その後、海神の助けで、魚が飲み込んだ釣り針を取り戻して兄に返すが、兄弟の亀裂は元に戻らず争いとなり、最終的に海幸彦は弟に服従する。
モノに魂が宿る
JS 「付喪(つくも)神」のように、「神」というより妖怪ではないかと思う“神様”もいますね。 平藤 100年ぐらい長く使われていた道具が、命を宿して神様となるのが付喪神です。悪さをすれば妖怪のような扱いになるし、いいことをすれば、感謝されて神様扱いになります。そもそも、日本の神様は、そんなに恐れ多いものではなく、人間も、モノも、動物も神様になれるのです。 全くありがたくはない貧乏神も、丁寧に扱えばいい事をしてくれるという伝承もあります。 JS 何を神様とみなすか、神様・神社とどう付き合うかは、その人次第ということですね。 平藤 その通りです。電子機器などは神社とは無縁だと思うかもしれませんが、携帯電話を神社でお祓(はら)いしてもらう人もいます。また、「ITの神様」としても知られる神田明神は、パソコンがコンピュータウイルスに感染しないためのお守りを授けています。人が必要だと思うものを神社は柔軟に提供するのです。