NECがDX事業の新たな価値創造モデルとする「BluStellar」とは
NECが、DX事業における新たな価値創造モデルとして「BluStellar(ブルーステラ)」を発表した。これまでの「NEC Digital Platform」を進化させ、新ブランドとして展開。これを「中期経営計画達成に向けた成長エンジン」と位置づける。 【もっと写真を見る】
NECは2024年5月30日、DX事業における新たな価値創造モデルとして「BluStellar(ブルーステラ)」を発表した。これまでの「NEC Digital Platform」を進化させ、新ブランドとして展開。これを「中期経営計画達成に向けた成長エンジン」と位置づける。 NECでは、BluStellarの事業推進組織を約400人体制で新設するとともに、約100人体制のAIコンサルタントを配置してDX事業を強化する。さらに、BluStellaの共創パートナーとして約400社と連携するほか、社内デジタル人材を2025年度までに1万2000人に拡大する計画も打ち出した。 BluStellarは「NECが自らやってきた変革実践の集大成」 NECでは2023年度に、コンサルティングから製品サービス、デリバリー、マーケティングまでの機能を一元化した「デジタルプラットフォームビジネスユニット」を、グループ横断組織として設置した。同ビジネスユニットは、およそ3万4000人の体制である。 今回は、この組織の中にBluStellarの事業推進組織を新設し、各ビジネス部門や横断組織と連携しながら、DXを加速させる製品やサービスを企画/開発していく。さらに、マーケットに特化したDXを推進するために、ビジネス部門ごとにBluStellarのアンバサダーを配置。あらゆる領域の顧客に伴走し、変革を推進していく構えだ。 NEC 取締役 代表執行役社長兼CEOの森田隆之氏は、BluStellarの狙いについて「NECが持つ技術、人材、知見のすべてをBluStellarに結集し、お客様のビジネス変革を加速させ、新たな価値創造へと導く。経営アジェンダを起点とし、価値創出へと向けた構想から実装までを担い、お客様と社会のDXを成功に導く」と説明する。 また、NEC Corporate SEVP兼CDOの吉崎敏文氏は、「BluStellarは抽象的な概念ではなく、ソリューションでもない。NEC自らがやってきた変革の実践を集大成したもの」だと説明したうえで、「BluStellarによって、NECは従来型のシステムインテグレーターから『System Value Driver』へと進化する」と述べた。 ちなみに、BluStellarという名称はイタリア語で「青い星」を意味している。吉崎氏は「夜空で最も明るく輝く星のように、人々と社会が進むべき目印となる星として、お客様や社会をリードしていく存在になりたいという想いを込めた」と説明した。さらに語末に「r」をつけることで、主役のような意味合いを付け足したという。 ビジネスモデル:AIのフル活用によるビジネスプロセス変革 発表会では、BluStellarの取り組みを通じたNECの進化目標について、「ビジネスモデル」「テクノロジー」「組織/人材」という3つの観点から説明がなされた。 ひとつめの「ビジネスモデル」では、AIをフル活用したビジネスプロセス変革「AI for all Process」を打ち出している。具体的には、戦略コンサルティング、サービスデリバリー、運用・保守のすべてのプロセスにAIを活用していく。 「NECでは、すでに300の業務にAIを活用し、200の製品およびサービスにAIを利用している。プロセスにおいて、AIを適用することで、効率的な導入を実現でき、それらに関する知見を蓄積できている」(吉崎氏) 戦略コンサルタント人材については、2019年にゼロだったものを現在は700人まで増やしており、2025年には1000人規模に拡大する計画を打ち出している。今回は新たに、700人のうち100人を「AIコンサルタント」として、データサイエンティストの知見を活用した企業の構想策定を行う方針を明らかにした。 「企業の構想策定においては、データを理解した専門家が必要。データに精通したAIコンサルタントと、業務知識を持つ戦略コンサルタントとの掛け合わせにより、構想策定から実装までのスピードを速め、新たな価値を生むことができる」(吉崎氏) また、プロセスマイニング技術を持つ独Celonisとの協業を強化し、NECが開発する生成AIの「cotomi」との連携により、業務プロセスの最適化も促す。Celonis CEOのバスティアン・ノミナヘル氏は「cotomiとCelonisのプロセスインテリジェンスの統合によって、多くの企業がプロセス最適化の機会を特定し、ビジネス変革を加速できる」と述べた。 さらに、NECが開発したオープンソースの「Exastro」により、SIを自動化し、デリバリースピードの向上に取り組んでいる例も紹介。「属人的な作業を自動化することで、クラウド環境の構築に数日かかっていたものを半日に短縮できている」とした。 テクノロジー:「生成AI」「セキュリティ」をキーテクノロジーに掲げる 2つめの「テクノロジー」では、生成AIやセキュリティの先端テクノロジーに、NECが培ってきたハードウェア/ソフトウェア/ネットワークの技術を組み合わせて実現する「AI & Security」を打ち出している。 たとえば、NECが開発する生成AIのcotomiでは、業種/業務特化モデルを用意して業務効率化を支援しているほか、秘匿性の高いデータを扱うユーザーを対象にオンプレミス配置が可能な「cotomi Appliance Server」を提供するなど、選択肢を広げている。またセキュリティ領域では、NEC独自の脅威データベースと生成AIを組み合わせることで、高精度な脅威インテリジェンスを従来の半分の時間で生成し、防御力を高めていると説明した。 なお、サイバーセキュリティ事業を担うNECセキュリティの社長として、警察庁やインターポールといった経歴を持つ中谷昇氏を招へいしており、中谷氏はNECのCSOにも就任した。今後はグループ全体で、高度なセキュリティ知見を持つ専門エンジニア集団を形成することを目指す。 加えて、NEC社内のR&D部門とビジネス部門のシームレスな連携体制を構築して、先端技術の市場投入を加速させる方針だ。吉崎氏は、R&D部門の要素技術を商品化/サービス化するサイクルを生成AIによって短縮できたこと、今後はさらにそのスピードを速める方針であることを説明した。 デジタルトラスト領域にも注力する。法律専門家やグローバル渉外専門家、レギュレーション専門家などによるデジタルトラスト専門組織を80人体制で構築した。これにより、AIという新たな技術を推進するうえでもガバナンスを効かせて「デジタルエシックス(デジタル倫理)」を強化していくとする。 生成AIのリスク評価においては、Robust Intelligenceとの連携を発表している。BluStellarを通じて包括的な生成AIサービスを提供する際には、あらかじめリスク評価を受けたモデルを提供するという。すでに先行12社と、リスク評価済み業種特化型生成AIの提供に向けた検討を開始しているほか、NEC社内でもリスク評価をクリアしたAIモデルを3万人の社員が利用しているという。 Robust Intelligence 共同創業者の大柴行人氏は、同社ではMITREやNISTをはじめとする各国の機関と連携して、AIリスクの研究と標準策定に取り組み、最新の技術や制度に対応したリスク評価を可能にする独自のツールやノウハウを提供していると紹介した。「cotomiへの貢献を通して、パートナーとしてBluStellarを支えていく」(大柴氏)。 組織/人材:オープンなエコシステムを通じた共創を推進 3つめの「組織/人材」では、オープンなエコシステムによる共創を推進する「Collaboration & Co-Creation」を特徴に挙げている。 ここではまず、AWSやマイクロソフト、オラクル、SAPといったグローバルハイパースケーラーとの戦略的協業を強化する。NECではAWS、SAPをはじめとして多くの専門人材を擁しており、この戦略協業を通じてBluStellarのビジネス拡大を狙う。 また、BluStellarの関連ビジネスを共創する約400社のパートナー体制を構築。共創プログラムを用意し、NECが持つ顔認証ソリューション、エッジプラットフォーム、ハイブリッドクラウドなどの展開を進めるパートナーコミュニティの拡充も図る。 NEC社内のデジタル人材育成については、「2025年度に1万人」を目標としていたが、すでに2023年度で1万376人に到達。あらためて、2024年度中に1万2000人を目指すという目標を掲げた。 さらに、NECが確立した教育体系「NECアカデミー for DX」をおよそ420社に提供し、約3万2500人のデジタル人材を育成したことも紹介した。NECアカデミー for DXは、基礎スキルの獲得と実践力強化を目指す内容になっており、今後もコンテンツのアップデートと拡充を進めると説明した。 文● 大河原克行 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp