給水にOBが登場する理由は、シンプルそのもの 「現地タイム係」で母校・駒大をサポートしたM高史が、"総力戦"をリポート
多くのOBが給水員として登場する理由
なぜこんなにOBが給水で登場するのかといいますと、シンプルに人手が足りていないからです。「OBのサポートなくして成り立たないです」とレース後、藤田監督も感謝の言葉を口にされていました。 現在、駒澤大学陸上競技部は中長距離部員とマネージャーで構成されていて、選手が36人、マネージャーは男女合わせて13人です。 箱根を走る選手10人に補欠が6人。各区間の付き添いがそれぞれ2人ずつ。さらに関東学連の補助員(走路員)を10人ほど派遣します。箱根駅伝は補助員だけで約2000人! 往復217.1kmの長丁場、観客100万人以上と言われる道のりですので、それだけの人数が必要になってきます。 他にも競技者バス係で1人。そして運営管理車には、監督とともに主務が乗り込みます。前述した「寮待機」「現地タイム係」「給水員」も含めると、どうしても現役の部員だけでは人数が足りなくなってしまうので、毎年数多くのOBも駆けつけ、一緒になって箱根駅伝を戦っています。 運営管理車から選手に伝えられるタイム差は、沿道で計測している「現地タイム係」が収集した情報がもとになっていることも多いので、毎年やりがいと覚悟を持って務めさせていただいてます。また、大八木弘明総監督も直接沿道に足を運ばれて、今大会では2区・篠原倖太朗選手(4年、富里)、6区・伊藤蒼唯選手(3年、出雲工業)、7区・佐藤圭汰選手を激励! 勝負どころや苦しい場面での熱い檄(げき)は選手の皆さんにとってきっと追い風になったことでしょう。部員、スタッフ、OBが一丸となって「チーム駒澤」で挑むのが駒澤大学の箱根駅伝です。
藤田敦史監督の就任後も受け継がれる〝駅伝魂〟
振り返れば大八木弘明監督時代から、たとえ往路で出遅れがあったとしても、総合優勝が厳しい状況になっても、「何としても復路優勝だけは勝ち取ろう」というチームスタイルでした。藤田敦史監督が就任されてからも、その〝駅伝魂〟は受け継がれています。 今回の復路スタート時、トップ青山学院大学との差は3分16秒でしたが、7区佐藤圭汰選手が区間新の激走! 6区の伊藤蒼唯選手、8区の安原海晴選手、9区の村上響選手(2年、世羅)も粘りの走りで、2分21秒差となりアンカーの小山翔也選手(2年、埼玉栄)へ襷(たすき)が渡りました。この時点で復路は2位に55秒リードしている状況でした。 10区のテレビ中継の定点は蒲田(5.9km)、新八ツ山橋(13.3km)、田町(16.5km)、御成門(18.1km)、馬場先門(20.1km)。データ放送や速報で差を確認できるだけでなく、10kmと15kmの給水地点でタイム差を確認することもできます。さらにそれ以外でも、「現地タイム係」が待機して差を計測し、選手や運営管理車の藤田監督と並木主務に伝えます。 復路は往路を走った選手も応援に駆けつけますし、最終10区では他の地点で役目を終えた部員も、手薄な地点を見つけて応援します。前日に2区を走った主将の篠原選手が9区で村上選手の給水を担当するなど、まさに総力戦です! 10区は沿道から大きな声をかけても選手に伝わりにくいので、ボードに大きな文字を書いたり、運営管理車の声かけポイントよりも前に監督や主務に伝えたりするなど、工夫も必要です。 今回は10区の小山選手が先頭から3分15秒以内に戻ってくることが、復路優勝の絶対条件でした。 2分21秒差で鶴見中継所をスタートし、蒲田(5.9km)では2分44秒、新八ツ山橋(13.3km)では2分56秒に。序盤でグッと差が広がり、その後は定点のたびにじわじわと離されていく展開になりました。定点以外にも現地タイム係が細かくタイム差を計測して運営管理車に伝えていたため、小山選手にも情報は伝わっていたと思います。 特に運営管理車からの声かけポイントよりも少し前に、いかに最新のタイム差を藤田監督にお伝えできるかがカギとなります。そのため、現地タイム係の配置場所がとても重要になってきます。 藤田監督の声かけや、それに見事に応える小山選手の力走で、後半に入ってからは差が広がらず、田町(16.5km)では2分56秒差。御成門(18.1km)で2分55秒差。馬場先門(20.1km)で2分53秒差と少しずつ盛り返し、最終的にフィニッシュ地点には2分48秒差の総合2位で戻ってきました。復路スタート時の3分16秒差よりも早くフィニッシュし、復路新記録で11度目の復路優勝を飾りました。