NATO離脱をほのめかしてきたトランプが再選濃厚......。そうなったら世界と日本はどうなる?
■日本はアメリカに抱きつき続けるしかない 仮にトランプが大統領に返り咲いたら、NATO離脱を試みるかもしれない。しかし、離脱しようがしまいが、アメリカが「NATOだろうが日米同盟だろうが、金を払わない加盟国は守らない」というスタンスを取る前提で、国防や安全保障を考えなくてはいけなくなりそうだ。 ロシア・ウクライナ戦争の終わりも見えず、中東情勢も不安定、米中対立や台湾有事の可能性など、今も問題が山積みだが、世界はどうなっていくのか? 「ウクライナ戦争への米軍の直接関与を避けているバイデン政権ですが、ロシアによる侵攻が始まってから、欧州全域に対して米軍の戦力を2万~4万人規模で増派しています。 最新のF-35戦闘機や艦艇を地中海に展開するなど、何かあれば相手を叩く準備ができている。これは『ロシアには同盟国の領土を1インチたりとも侵させない』という明確なメッセージであり、抑止力として機能してきました。 しかし、アメリカの世論がさらに国内に向いて『アメリカは世界から手を引いたほうが得だ』と考える人たちが増えれば、NATOの抑止力は低下し、プーチンからしたら『1インチを侵すこと』へのリスクが下がることになる。たとえトランプが当選しなくても、アメリカの内向き傾向は変わらない可能性が高いといえます」 これまでは、暗黙の信頼で辛うじて保たれていた安全保障だが、特に地理的に大国に近い国は侵攻のリスクが高まる。鶴岡氏は「そうした国が取れる対策の方向は、主にふたつある」という。 「ひとつは『アメリカとの2国間関係をひたすら強化する』というやり方です。より具体的に言えば、トランプが言うとおりに金を払うこと......。今回のトランプの発言も『国防費の負担が足りない国は守らない』というのが肝心で、裏返せば、金を払いさえすれば、アメリカに守ってもらえるということでもある。 すでに欧州でも、ロシアの脅威に震えるポーランドなどがその方向に動き出しています。トランプ側から見ればNATOという枠組みではなく、こうした2国間のディールによって、より有利な条件を相手から引き出すことがアメリカの国益につながるという理屈です。 もうひとつの方法は、アメリカ抜きで安全保障体制を構築する考え方。ヨーロッパの場合、例えば核保有国であり、アメリカとの結びつきも強いイギリスの存在が重要なポイントになってくるでしょう」 では、日本はどうすれば? 「日本が取れる選択肢は大きく分けて3つあります。ひとつ目は、安倍政権時のように、『アメリカの言うことを聞いて抱きつく』作戦。ふたつ目は、『アメリカと別れて中国とくっつく』作戦ですが、これは現実的に考えてありえないでしょう。 3つ目は『アメリカに頼らず日本が核武装して自力で安全保障体制と抑止力を確立する』作戦。これは一部の右翼が喜びそうな危なっかしいアイデアですが、アメリカも日本の核武装は望んでいませんし、中国とアメリカの両方を敵に回しかねないので、絶対にすべきではありませんね(苦笑)。 そう考えると1番目のアメリカに抱きつく以外に選択肢がないというのが、今の日本の悲しい現実でしょう」(前出・前嶋氏) 「もしトラ」でアメリカがNATOを脱退なんてトンデモな笑い話かと思いきや、すでに世界の安全保障がほころび始めている様子。自国の防衛や安全保障をどうするのか、今のうちから真剣に考えておく必要がありそうだ。 取材・文/川喜田 研 写真/時事通信 iStock