このままでは小田原城や小倉城の二の舞になるだけ…メディアが報じない「名古屋城天守再建問題」の本質
■バリアフリー化への私見 名古屋市は「様々な工夫により、可能な限り上層階まで昇ることができるよう目指」しているという。その姿勢は失うべきではない。また、今後の技術の進歩により、バリアフリーを実現するうえで、あらたに可能なことも出てくるだろう。 だが、名古屋城天守を木造復元する意義が、この特別な建築をよみがえらせて後世に伝えることにある以上、オリジナルの構造を大きく損ねるようなバリアフリー化には、私は否定的にならざるをえない。 その結果、障害者が上層階に登れないのが問題であるなら、身体に障害がない人も登らなければよいとさえ思う。だが、現実には、入場料を徴収して内部に人を入れなければ、復元にかかった費用を回収できず、維持費も確保できない。 それなら、障害がない人も、昇降機等で車いすを運べる階までしか登れないようにするのも一案だろう。だが、いちばん大切なのは、ここに述べた木造復元の意義について、理解が行き渡ることではないだろうか。 ---------- 香原 斗志(かはら・とし) 歴史評論家、音楽評論家 神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。日本中世史、近世史が中心だが守備範囲は広い。著書に『お城の値打ち』(新潮新書)、 『カラー版 東京で見つける江戸』(平凡社新書)。ヨーロッパの音楽、美術、建築にも精通し、オペラをはじめとするクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』、『魅惑のオペラ歌手50 歌声のカタログ』(ともにアルテスパブリッシング)など。 ----------
歴史評論家、音楽評論家 香原 斗志