そうだ川を渡ろう。地下鉄工事も後押し、ニューヨーカーに好評フェリー移動
フェリーで対岸の仕事場へ、という選択肢
実際に訪れた8月初め。その日もまたLラインは一部運休、トンネルも通れない。イーストリバーに最も近いブルックリン側のベッドフォード・アベニュー駅では、すでに階段幅の拡張やエレベーター設置などの予備的工事が始まっていて、ちょくちょく電車が止まってしまう。 駅周辺の舗道は半分が工事用フェンスでふさがれて、交差点は大混雑、車のクラクションもやたらとうるさい。が、そんな騒々しさもノース7th ストリートを川に向かって2ブロックも歩けばかなり和らいでくる。 道沿いカフェやバーを眺めながら進むと、まもなく遠くにマンハッタンのビル群が見え始め、公園を横目に高層マンションの間の道へ。 徒歩10分足らず。そこに埠頭がある。 そう、フェリーで川を渡るのだ。
電車、バスと同価格。仕事終わりの地元ビールも楽しみ
その名も「NYC Ferry(ニューヨークシティ・フェリー)」。昨年5月、通勤ラッシュや交通渋滞の緩和を目指して就航した。 いまのところニューヨーカーの新しい足として予想を上回る数の乗客が利用しているという。ルートは当初4つだったが、今月15日に「サウンドビュー」が新たに加わり、「ローワー・イースト・サイド」が29日(現地時間)にスタートして計6つになった。 さて、駅から歩いて到着した「ノース・ウィリアムズバーグ」の埠頭からは「イーストリバー」というルートが出ていて、マンハッタンの34丁目、またはウォール・ストリートに渡れる。天気も良いので、この日はマンハッタン橋やブルックリン橋をくぐり抜けながら川沿いの景色が堪能できるウォール・ストリート行きに乗船することにした。 最高時速27ノット、最大150人の乗客を運ぶ真新しいフェリーにはトイレ、コンセントがついている。 特に魅力的なのは、仕事終わりの一杯にちょうどいい地元クラフトビールを含む数種の生ビール(6ドル)が買えること。2階にはデッキもあって風が心地よく、およそ25分間のプチクルーズは楽しいままに、あっという間に終わってしまった。 ここまでNYC Ferryが概ね市民に好意的に受け入れられている理由のひとつに地下鉄やバスと同額の2ドル75セントで乗船できることがあるだろう(以前からフェリーサービスはあったがかなり高額だった)。 しかも船内で係員に申し出れば、無料で別ルートへの乗り換えが可能に。現在は埠頭の券売機、またはウエブでチケットを買うが将来的には「メトロカード」(プリペイドカード)も使えるようになるそうだ。 ひとつ心配するなら1時間に1、2本しか出航しない時間帯やルートがあるということ。もう少し本数が増えればもっともっと使いやすくなる。 とはいえ、地下鉄が止まっても、トンネルが不通でも、橋が渋滞でも「まあ、いいさ、今日はフェリーにでも乗ろう」というゆったりした気分でいられるなら、このNYC Ferryは通勤に、観光に、大いに役立つはずだ。 もしかしたら、そんな気持ちの余裕が一番大切なのかも知れない。 翻って東京2020オリンピック・パラリンピックが迫る首都圏のラッシュアワー。あのひどい混雑は一体いつになったら解消されるのか? 東京でも水上タクシーの試験的な運行など水上交通利用の検討が始まっているそうだ。だが、まだ価格帯も通勤客に普及していくレベルには至っていないようだ。東京近郊のベッドタウン、神奈川や千葉などからの長時間通勤も苦痛がともなう。 「そうだ、だったら、東京湾を渡ってしまえばいい!」などと誰か言い出したりしないのか? 「みんなの足」として着実に認知され始めたニューヨークのフェリーにゆられながら、つい、そんなことを思った。 NYC Ferry公式サイト:www.ferry.nyc ---------- ■林菜穂子(はやしなほこ) 東京出身。ニューヨークでライター、フォトエディター、撮影コーディネイター、広告制作などに携わる。1997年、独立。現在ブルックリンのブッシュウィックを拠点に、アート関連の活動にも取り組んでいる。 Video: at SUSHI FILM