「綾瀬コンクリ事件」元少年の「その後」に集まる関心 警察は凶悪犯の“出所後”をどこまで把握しているのか
基本的には把握せず
「基本的に警察は、刑期を終えた元犯罪者の動向については把握していません」 と解説するのは、元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏である。 「出所後にどこに身を寄せるのか。自宅に帰るのか、施設へ行くのか。そういった点の把握はしますが、その動向を逐一追うことはしません。してはいけないのです。なぜなら、更生した、あるいはしようとしている者の邪魔になるからです。警察官がその人物の所在、あるいは近況を探るため、近隣住民に尋ねたとしましょう。対象人物の素性を明かさなかったにせよ、周囲の住民にしてみれば“あの人は何者だ”となる。対象の本人にしてみれば、生活を脅かされたことになり、人権侵害になってしまいます。仮に動向を追うとしても、年に数回の巡回連絡で訪問し、そこにいるかを確認するくらいです」 海外では前歴者や仮釈放中の人物の体にGPSを装着し、監視を行うシステムがあることは知られている。性犯罪者情報公開法であるミーガン法が制定されているアメリカでは、前科者の位置情報が地図上にマッピングされるサービスまである。これらの国と日本との間には、大きな差を感じるが、 「もっとも『綾瀬コンクリ事件』の犯人のような場合は、一般的な前科者よりは、詳しく動向を把握していた可能性もあります。この事件は、未成年によるまれに見る凶悪犯罪であり、世間的にも有名な事件であるからです。しかしながら、“これくらいの犯罪なら動向を追跡する”という明確な基準が警察内にあるわけではないですし、そういった情報が交番の巡査レベルで共有されていたとも思えません。どこで漏れてしまうか分かりませんから、当然ながら情報の取り扱いは慎重になります。今回の場合でいえば、たとえば所轄警察署の刑事課では所在を把握していて、それが“もっと大物だ”という発言につながったのでは」
再犯防止策としての動向把握
身もふたもない言い方をすれば、“元犯罪者が野放し”にされているのが日本の現状である。2018年5月に起きた新潟女児殺害事件で逮捕されたK容疑者には、女子中学生の連れ回しで書類送検された過去があったことがクローズアップされた。 「フランスでは、有罪判決を受けた性犯罪者に、監督者との定期的な面談や、住所の届け出を義務付けるなど再犯防止の措置が課されます。これは警察が見回る手間を省くと同時に、元犯罪者の人権を守る機能でもある。乱暴な言い方になりますが、きちんと再犯防止に努めているのであれば、代わりに警察がそちらに行くこともないぞ、というわけです。日本でも似たような形として保護観察があり、保護司が対象の所在地を把握してはいますが、警察もそれを知ることができるかというと、そうではない。警察が保護司に住所を尋ねたとしても、教えてもらえるとは限らないのです。私も現役時代、捜査のため観察対象となっている人物の所在地を保護司に聞いたことがありますが、“そうやって警察が訪ねてくるから更生できないのだ”と拒まれました」 大阪府では、12年から「大阪府子どもを性犯罪から守る条例」が施行され、子どもへの性犯罪を犯した元受刑者は、出所後5年は住所などを届け出なくてはならない。府からの照会に応じて、法務省は前科者情報を提供している。 フランスのような住所を把握するシステムの導入は、法務省でも検討されていると小川氏は続ける。 「いざ導入するとなれば、やはり人権や更生を盾に反対する人が現れるでしょう。しかし、元犯罪者の動向を警察が把握することは、警察のためであると同時に、ある意味で本人のためでもある。性犯罪やストーカー、薬物絡みの犯罪は、本人がやめたくてもやめられない性質があります。そのような罪を犯した受刑者は、刑務所で更生プログラムを受けますが、これで本当に“完治”するかというと怪しい。仮釈放や刑期の短縮を目的にプログラムを受ける側面もあるからです。ですから本気でやめたいと思うなら、出所後も自腹を切ってプログラムを受ける“努力”を続けなければならない。その際、同時にそこに警察の“目”があれば、一種の自制力が働くことにもなるのです。こうした再犯防止の取り組みには費用がかかるわけで、“なんで元犯罪者のために税金が使われるんだ”という議論にもなるのですが……」 “一生刑務所から出すな”“死刑にしろ”の極論だけでは、問題は解決しないのだ。 デイリー新潮編集部
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