「ミニ クーパー」にイタリア製があるって知ってた?「チンクエチェント」の国がどうして? 500万円で落札された「イノチェンティ」を紹介します
外観こそ英国版ミニと大差ないが、内装はイタリア車らしさ全開!
こうして誕生したイノチェンティ ミニでは、スタンダードな「850」にくわえて、エステートワゴンの「トラベラー」や1000ccの高性能版「クーパー」など、英BMC版ミニに準拠するさまざまなモデルが用意された。 これらのイノチェンティ ミニは、外観こそ英国版ミニと大差ないものの、とくに高級グレードとしての役割も期待されていたミニ クーパー(1000からのちに1300に発展)は、英国版には設定のないスポーティで豪華なダッシュパネルに、こちらもイタリア版のみの装備となるタコメーターを含む「ヴェリア」社製メーターを連装。シートも同時代のイタリア製グラントゥリズモを思わせる、ゴージャスな意匠とされていた。 くわえて、英本国版ミニ クーパーS Mk IIIが1971年をもって生産を終えたのちも、イノチェンティ版では黒地に「Innocenti」ロゴの入ったラジエータグリルを持つ「ミニ クーパー1300」が1975年まで継続生産され、本家の抜けた穴を埋める存在となった。
ボディカバーは奥さまのお手製! ひとりのオーナーが半世紀愛したミニとは?
1966年に登場したイノチェンティ ミニ クーパーは、1968年秋にMk IIへと発展する。1Lユニットは、本国版クーパーSと共通のカムシャフトや2連装のSUキャブレターなどでチューンを高められ、前輪のディスクブレーキもクーパーS用からコンバート。1968年9月から1970年2月まで、8992台が生産されたといわれる。 そして、このほどRMサザビーズ「Cliveden 2024」オークションに出品されたのも、そんなイノチェンティ製ミニ クーパー 1000 Mk IIのうちの1台だった。 1969年初頭、ジュゼッペ・スゲッリなる人物が新車でオーダーしたこのイノチェンティ ミニは、4月4日にマルケ州ペーザロにて「P83501」のナンバーとともに初めて登録されたことがわかっている。 そののち50年間にもわたってスゲッリ氏の手もとに置かれたこのクルマは、雨に濡れるのを避け、つねにガレージに保管されていたとのこと。また特筆すべきは、付属されていたパッチワークのカーカバーで、初代オーナーの妻が手縫いしたものだという。 じつに半世紀にも長きにわたってスゲッリ家で特別な寵愛を受けてきた結果、このイノチェンティ ミニはノンレストアのまま、エクステリアもインテリアも非常にきれいに保たれているうえに、オリジナル性の非常に高い個体となっている。新車として工場から出荷されたときと同じ、正規オプションの「ハイドロラスティック」サスペンションが残されているのは、その最たる例といえよう。 2019年8月に、今回のオークション出品者でもある現オーナーのもとに譲渡され、英国に輸入されたこの個体には、「イノチェンティ ミニ」としてのファクトリーデータこそ存在しないものの、1969年当時物の、イタリアのディーラーが用意したリブレット(書類ケース)には、クラシックカーとしての正統性が管轄団体から承認されたことを示す「ACI(Automobile Club d’Italia)」および「ASI(Automotoclub Storico Italiano)」のパスポートが添付。またフロントグリル中央には、ASI承認の証である真鍮プレート「タルガ・ドーロ」が装着されている。 くわえて、イタリア国内での登録状況や車両履歴を証明する「エストラット・クロノロジコ(Estratto Cronologico)」も添付されているのだが、それによるとエンジンナンバーはイノチェンティ クーパー Mk IIとしての生産時に使用されたシャシー配列の正しい番号のもの。つまり、マッチングナンバーである。 RMサザビーズ欧州本社が公式ウェブカタログを作製した際のオドメーターは5万3185kmを記していたそうだが、来歴から推測する限りでは、このマイレージは正確なものとみて間違いあるまい。