男性アナには「姉のいる弟」が多い? 無意識のうちに「家族」をモデルに人間関係を考えてしまう人びと(古市憲寿)
「年齢が10歳とか15歳くらい離れている人間関係が一番難しいの」。とある女性が漏らした言葉なのだが、なるほどと思った。
たとえば20歳以上年齢が離れていれば、親子のような関係になれる。同世代や5歳とかの年齢差ならば、きょうだいのような関係になれる。つまり家族の中にモデルがいるのだ。しかし10歳や15歳の差というのは、しっくりくる呼び名がない。年の離れたきょうだいはあり得るが、現代日本ではあまり多くはないだろう。 もしかしたら人は、無意識のうちに「家族」をモデルに人間関係を考えてしまうのかもしれない。 多感な子ども時代に経験するコミュニティーといえば、基本は「家族」と「学校」である。家族は、もっぱら親子ときょうだいで構成される。場合によってそこに祖父母が加わる。学校で濃密な関係になるのは、同級生と先生。そこに10歳や15歳差の人間関係は発生しづらい。 僕は、両親、祖父母、妹2人という7人家族で育った。それがどれだけ影響しているか分からないが、今でも年上の友人が多い。定期的に会う90代もいる。いわば祖父母世代だ。子どもの頃から慣れ親しんでいるせいか、適当な距離で付き合うことができる。最近、よく言われるのは「私たち、先に死んじゃうからね」ということ。その通りだ。 だが年上のきょうだいがいなかったせいか、「兄」や「姉」のような友人はあまりいない。そういえばテレビ局の男性アナウンサーには、「姉のいる弟」が多いと聞いたことがある。女性に慣れていて、かつかわいがられやすい性格が、お茶の間での人気の秘密なのだろう。
僕の場合、学校で部活にきちんと入っていなかったので「先輩」「後輩」という関係もしっくりこない。だから基本的には年齢に関係なく広く「友達」とくくって、できるだけ同世代に近い関係を作ろうとしている。 親の年齢までいかない年上の友人は、ため口で「くん」づけにしたりする。「くん」が失礼な場合もあるが、その人を若く見せる効果もあるので、喜ばれることも多い。 だがここでも難しいのは、10歳や15歳離れた関係。会社組織のように「上司」「部下」モデルでいくなら問題はない。それくらいの年齢差の「上司」「部下」はたくさんいる。実際、社内外を問わず誰も彼もを「部下」のように扱うことで権威を保とうとする人もいる。考えたら「上司」「部下」モデルは、子どもの頃の「先生」「児童」モデルの応用といえるのかもしれない。 上下関係を作りたくない場合、一つは疑似恋人になるという選択肢はある。恋愛なら10歳や15歳の年齢差は、決して不思議ではない。だが恋人というのは、親子やきょうだいよりもメンテナンスに気を使う。家族に存在しない関係だからか、壊れやすいのだ。別れるときはもめるし。 離れたつもりでも束縛されているもの、なかなか自由になれないもの、それが家族なのかもしれない。 古市憲寿(ふるいち・のりとし) 1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目され、メディアでも活躍。他の著書に『誰の味方でもありません』『平成くん、さようなら』『絶対に挫折しない日本史』など。 「週刊新潮」2024年11月14日号 掲載
新潮社