朝ドラ『虎に翼』戦後の悲惨な生活…闇市で手に入ったものは? 餓死・栄養失調で苦しんだ人々のオアシス
NHK朝の連続テレビ小説『虎に翼』第9週「男は度胸、女は愛嬌?」が放送中。夫である優三(演:仲野太賀)が戦病死していたという事実を知った寅子(演:伊藤沙莉)は、日々の生活を淡々とおくりながらも心の傷と向き合えずにいた。見かねた母・はる(演:石田ゆり子)のはからいで闇市に行って焼き鳥を買い、思い出の河原でようやく優三を思って涙を流したのである。今回は寅子らが足繁く通う闇市がどういった場所であったかを解説する。 ■餓死や栄養失調で苦しむ人々の頼みの綱だった闇市 昭和20年(1945)の終戦以降、復員や外地からの引揚げなどで、都市人口が増加。ところがその人口に対応できる物資があるはずもなく、政府が物価統制令に従って行っていた配給は機能しなくなっていた。 同年、東京・上野駅付近での餓死者は1日平均2.5人、その他大都市を含め全国で餓死者や栄養失調による死者が続出した。それでも、食糧管理法に従えば、配給以外で食糧を手にいれるのは違法行為とされていたのである。判明した際には、入手した食糧を没収された。 各地では「米よこせ運動」が頻発し、11月1日には日比谷公園で「餓死対策国民大会」が開催された。また、昭和21年(1946)5月には「飯米獲得人民大会」が行われ、皇居や首相官邸付近で政府の食糧配給遅延に抗議するべく25万人が集まった。それほどまでに人々は飢えていたのである。 ■劣悪な環境ながら食糧や生活雑貨が手に入った闇市 闇市では、野菜や魚、生活用品などが売られた。そのうち、うどんやおでん、汁粉などを提供する屋台も出るようになる。作中で寅子が食べていた焼き鳥ややきとんといったグルメも出されるようになっていった。 そして“闇市グルメ”として言及しなければならないのが、各地の闇市で販売された「残飯シチュー」である。連合国軍最高司令官総司令部(進駐軍)の残飯が闇市に運ばれ、大鍋やドラム缶にあけられて煮込まれたものだ。「シチュー」とは名ばかりで、ほとんど手を加えられず、少量の調味料が加えられればまだ良いほうだったという。そればかりか、タバコの空き箱や吸い殻、チューインガムのゴミ、ネズミなどの死骸まで入っていることがあったという。それでも人々が列をなして求めたことから、当時の悲惨な食生活がみてとれる。 闇市では酒も提供されていた。とはいえもちろん上質なものではなく、「カストリ酒」といわれる粗悪な密造酒が多かった。主にサツマイモや麦が原料になっていたが、実際は素人が勝手に製造し、原材料や製法がまったくわからないものが大半だったという。それでもどうしようもない気持ちを抱え、せめて酔いたいという人々にとっては、安価でアルコールが手に入る絶好の商品だった。夫・直道(演:上川周作)が戦死し、空襲で両親を喪った花江(演:森田望智)が口にしていたのも、こうした類の酒だったのだろう。 終戦したからといって、人々の暮らしが改善されるわけではない。それどころか配給もままならず、常に餓死や栄養失調という命の危機に晒されながら、日々を懸命に生きるしかなかった。そんななかで、寅子がやっと新しい希望である「日本国憲法」と出会う瞬間が訪れる。復興……というより新たに出来上がっていく日本という国で、寅子らがどのように生きるのか見守りたい。 <参考> ■NHKドラマ・ガイド『虎に翼』(NHK出版)
歴史人編集部