ハイパーインフレを恐れるドイツが墨守する「債務ブレーキ」の憂鬱、インフラ投資もままならず
■ 置かれている状況は同じだがない袖を振れない日本 ドイツ経済を取り巻く状況に鑑みれば、ドイツが債務ブレーキを緩和することには一定の合理性がある。ドイツの憲法は連邦議会での議決で改正できるため、3分の2以上と高いハードルになるが、債務ブレーキを緩和することは可能だ。FDPが反対したとしても、他の主要政党が合意に達すれば、債務ブレーキ緩和への道は拓ける。 ドイツでは2025年10月までに総選挙が行われる。債務ブレーキの緩和は、総選挙で一つの論点になるだろう。 直近の支持率調査を踏まえると、社会民主党(SPD)と同盟90/緑の党(B90/Gr)、FDPの3党からなるショルツ政権が続投する展開は望みにくい。FDPが新政権に参加しなければ、債務ブレーキ緩和に向けた合意形成は容易かもしれない。 ドイツは支払能力が高いため、債務ブレーキが多少緩和されたところで、財政運営はガタつかない。むしろ債務ブレーキが存在することで、ショルツ政権はそれを迂回しようと予算外基金を流用し、違憲判決を受ける事態となっている。 政権の財政運営の拙さもあるが、債務ブレーキが政権の「モラルハザード」を生んだ側面も看過できない。 翻って、日本でもインフラの老朽化問題は深刻である。とはいえ、財政がひっ迫している日本では、ない袖は振れない状況にある。民間資金の活用は20年来の課題だが、必ずしもうまくはいっていない。 限りある財源の中でどのように公共投資を増やしていくか。日本はドイツ以上に、選択と集中を図らなければならないだろう。 ※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。 【土田陽介(つちだ・ようすけ)】 三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)調査部副主任研究員。欧州やその周辺の諸国の政治・経済・金融分析を専門とする。2005年一橋大経卒、06年同大学経済学研究科修了の後、(株)浜銀総合研究所を経て現在に至る。著書に『ドル化とは何か』(ちくま新書)がある。
土田 陽介