老害と言われようと…92歳・広岡達朗が「巨人軍」を語り続ける“明快な理由”
すべては“真理”のままに
それでも広岡が耐えられたのは、プロ野球選手としての誇りとプライドを強く持っていたからだ。それが1950年代後半の巨人軍の教育でもある。誇りとプライドを維持するためには何をやらなくてはいけないのか、広岡は絶えず考えて行動してきた自負があった。 そしてある日、電話口で広岡がポツリと言った言葉があまりに強烈すぎたのを覚えている。 「なんで俺がやったら勝てるんかなぁ。あんなに敵が多かったのになぜ俺が勝てるのかと不思議に思ったことがあった。考えてみたんだが、勝てるワケがわかったよ。簡単なこと。ごく普通にやらしただけよ。 “真理”のままにやっただけ」 思いもよらない言葉だっただけに聞いている途中でつい笑ってしまったが、よくよく考えると、まさにこの言葉こそが真理だと思った。 真理とは、誰も否定することはできず、変わることのない道理のことだ。 今ではアスリートに向けた食事管理が当然のように行われているが、およそ45年以上前にやった食事改善は、あまりに先鋭すぎた。当時内外から叩かれまくったが、選手の体力維持、健康促進、そして選手寿命を延ばすことを考えればやったほうが良いに決まっていると広岡の信念は揺るがなかった。 選手に課した基礎練習の反復にしたって、基礎を習得しなければ技術が積み上がっていかないことくらい誰にだって理解できる。すべては真理に基づき、勝つため、選手のために至極真っ当なことを広岡は忠実に実践してきただけ。真理を極めるべく行動した結果、嫌われすぎた監督となってしまった。 92歳の広岡達朗の正体を本当の意味で知りたいがために、自分は話を聞き書き続けてきた。まだまだ終わっちゃいない。さまざまな角度から正体を暴き、次は真髄に完璧に触れるまで食らいつくつもりだ――。
松永 多佳倫(作家)