老害と言われようと…92歳・広岡達朗が「巨人軍」を語り続ける“明快な理由”
---------- 前編記事『“嫌われた球界の最長老”広岡達朗が辿り着いた哲学…「人はなぜ生まれてくるのか?」』より続く。 ---------- 【一覧】プロ野球「最も愛された監督ランキング30」最下位は、まさかの…
選手ファーストは間違い
時にメジャーの潮流に合わせて日本プロ野球も進化し続けている。この数十年で動作解析技術や解析機器の精度は大きく向上しただけでなく、選手たちも有益な情報をネットで簡単に仕入れられるようにもなった。 明らかに野球だけでなく自分たちの周りの世界が広がった。そんな選手たちを受け入れ、育てていく使命が課された指導者に求められる要素も、大きく変わってきている。 ベースは同じでも選手のタイプによってコーチングのアプローチの仕方も千差万別になってくる。だから、勉強なのだ。広岡達朗は監督の職務についてこういうふうに言ったことがある。 「監督であるなら2月のキャンプで選手と対面すれば、こいつはしっかり鍛えな、こいつはちょっと怠けたなとわかる。そこからが問題だ。クリーンナップを担える主砲として育てるべきか、それともトップバッターとして育てるべきかと迷うのなら、与えたい役割に適しているかどうか性格も見抜かなくてはならない。 今の指導者は“選手ファースト”の姿勢が強く見受けられる。選手にやる気がなかったら全然モノにならんとはどういうことか。選手のやる気はもちろんだが、根気よく選手に教え続ける重要性を今の指導者は理解しているのか」 現指導者に痛烈な問いかけをしているように見せてのダメ出しだ。 人間は、正しいことをやり続ければいつかはできるようになる。野球において早いか遅いかはあるけど、途中で簡単に諦める奴はダメ。反対方向に向いていたら永久に着かないけれど、方向性が決まれば誰がなんて言おうとそこに絶対に辿り着くんだと最後まで強い気概を持ってやり遂げる。その方向性を定めてあげるのが、指導者の第一の役目なんだと広岡は強く言い続けてきた。
いじめる人間に恵まれた
今まで100回以上電話で話しをしているが、どんな話題であろうとか必ず巨人軍の話に展開する。時折、現役時代の話題も盛り込み、川上哲治、青田昇、水原茂、三原修……レジェンドの名前がバンバン出てくる。話を聞いている分には大層面白いんだが、ネット記事で昔の巨人軍の話を出すとネット民から“老害”のワードが飛び交い、大バッシングされてしまう。 「半世紀以上も前の巨人のことを言うには理由がある。川上さんをはじめ、千葉さん、平井(三郎)さん、宇野(光雄)さん、ウォーリー(与那嶺)、みんな立派な教育のもとに強い巨人が成り立っていた。我々は、その雄姿を見ながら勉強していったもんなんだよ。 あの頃の教育をみんな忘れている。いい選手が生まれれば生まれるほどチームのレベルは上がる。いい選手というのはただ成績を残すのではなく、プライドを持って野球に取り組む選手のこと。年数を経れば、できてもできなくてもプライドを持ち威厳を見せつけ、若い選手に『こうやれ』と言える選手じゃないとダメ。川上さんはそう言って俺らをいじめたから。 でも、いじめる人間にも恵まれたんだよ。俺がずっと『川上、悪い奴だ』って言い続けていたら、本当に悪い奴として後世に名が残る。『あの人のおかげで勉強できた』って言ったら川上さんの値打ちも上がるもの(笑)」 広岡にとって“川上哲治”のワードは外せない。川上哲治の存在こそが広岡の野球人生に大きく影響を及ぼしたからだ。 熊本工業出の川上は六大学のスター広岡に対してコンプッレクスを抱えていたのか、まず肩書きが気に喰わなかった。そこから執拗なイジめが徐々に始まる。結局、広岡は現役生活13年間に渡り、反目し合った川上から攻撃し続けられた。