芥川賞の高橋弘希氏、受賞に「ガッツポーズは出なかった」
第159回芥川賞・直木賞の受賞会見が18日夜、都内で行われ、「送り火」で芥川賞を受賞した高橋弘希(ひろき)氏(38)は、受賞の印象を「うれしいですよ、うれしいですけど、小説って、ガッツポーズってあまり出ないんですよね。短距離走ならいいんですが」と飄々と語った。
1979(昭和54)年、12月8日青森県十和田市生まれ。2014年に発表した「指の骨」は、第46回新潮新人賞を受賞したほか、第152回芥川賞にもノミネートされた。以来、2015年の「朝顔の日」、2016年の「短冊流し」を経て、4回目のノミネートで芥川賞受賞。 発表を待つ間の心境を聞かれると「期待は特にしていないです。普通に待ってました」。受賞については「評価されるということなので、何かしら受賞できればうれしいことはうれしいが、別に賞が欲しくて書いてる人はいないと思う。結果として取れればいい」と語った。 青森県出身者の芥川賞受賞は、1961(昭和36)年に「忍ぶ川」で受賞した故・三浦哲郎(てつお)氏以来、57年ぶり2人目。受賞作の舞台も青森県で、「(子どもの頃に過ごした青森の)記憶をたどって書いた」という。 受賞した「送り火」については、高橋氏の「描写」手法に質問が集まった。描写に意味を込めるかとの問いには「描写するということは作品内では何かしらの意味がある。なるべく意味のある描写を心がけている」。語り手の視点が傍観者的であることについては「そんなに意識はしていないが、主人公が見たことを細かく書いていくと傍観者っぽくなる側面があるのかな」と分析した。 一方、選考会では「読みにくい小説」との講評もあった。それについては「読みにくくはない。だいぶ読みやすい」と異論を述べつつ、選考委員の島田雅彦氏が、言葉で別世界を構築するフィクションの醍醐味があると評価したと聞くと、「今の選考委員の皆さんの作品を読んでいる世代なので、褒められるとうれしいですね」と率直に語った。 やる気になれば書くが、やる気にならないと書かないという高橋さん。芥川賞の受賞でやる気が出るのかという問いには、「どうですかねえ。出るのかなあ、ちょっと数日様子を見てみます」と言って笑わせた。 (取材・文:具志堅浩二)