知的財産トラブル、下請け企業に責任転嫁 中企庁調査で不当な契約が複数発覚、「見えない価値」のリテラシーを高めるために
企業間における知的財産トラブルの増加を受け、中小企業庁は「知的財産取引に関するガイドライン」をまとめている。知的財産トラブルを下請け企業が押しつけられたり、事業承継時に商標を適切に受け継げなかったりするなど、さまざまな問題を回避するには、どのようにすればいいのだろうか。ガイドラインをひもといた。 【動画】なぜ事業承継が大切なのか専門家に聞いた。
◆知的財産を侵害するリスクとは
知的財産は、人間の創造的活動で生み出された無形の財産のことだ。 特許権、著作権、商標権などで、たとえばキャラクターや企業ロゴ、スマホの操作入力技術といった独自の技術などは、知的財産の代表例といえる。 他社が有する知的財産を無断で使用したり、似たキャラクターを作って「オリジナルだ」と主張したりすると、訴訟や株価下落など深刻な問題に発展する恐れがある。 こうした知的財産にまつわる問題の増加を受け、中小企業庁は2021年3月に「知的財産取引に関するガイドライン」を策定した。 このガイドラインは主に、発注者側の企業が下請け企業に、知的財産権に関して不当で不利な契約を強いることを防ぐという目的がある。 たとえば、「発注者の指示に基づく業務にも関わらず、知的財産訴訟が起こされた場合、下請け企業が責任を負う契約を押しつけられた」といった契約だ。 こういった場合、責任を受注者側に押し付けることは適正ではない、と明示されている。
◆中小企業の驚くべき実態と、新ガイドラインに込められたねらい
中企庁はさらに2022年から、知的財産取引の実態を把握して適正化を図るために、「知財Gメン」を設置し、中小企業の知的財産に関わる実態の調査を進めている。 この調査では、下請け企業に対する「責任転嫁」の不当な契約が複数発覚した。 たとえば、ある金属製品製造業では、取引先の指示に従って加工するだけの取引にもかかわらず、納品した製品に関して知的財産訴訟等が生じた場合、その責任を全て負わなければならないという取引条件を一方的に設定されていた。 こうした事態の深刻さを受け止め、2024年7月に中小企業庁は現行のガイドラインや契約書のひな形、規定の改正を決定。 パブリックコメントの募集を開始された。
◆事業承継時に知的財産でトラブルになった事例
知的財産トラブルは、事業承継時にも注意を払わなければならない。 たとえば、承継時に企業が二つに分かれた際、屋号を商標登録していなかったため、事業を引き継いだ側が社名を引き継げなかった、というケースがある。 事業承継は、知的財産という「見えない価値」を洗い出して「見える化」する契機でもある。 企業独自の屋号や商品・サービス、技術などのブランド価値をしっかり保護するとともに、不当な契約を結ばないなどの知財リテラシーを高めることは、事業やブランドを次世代に受け継いでいくことにもつながる。
取材・文/松田謙太郎