「久世福商店」を展開するサンクゼール、長野発製造小売りの強みとは?
2010年代に入り、事業の成長を模索する中で、和食の世界的なブームに商機を見いだす。和食がユネスコの無形文化遺産に登録された2013年、サンクゼールは「和のグロッサリーストア」をコンセプトに掲げ、久世福商店ブランドをスタート。今では屋台骨の事業に育った。 近年、サンクゼールを悩ませているのは製造コストの上昇だ。自社、仕入れ先ともに原材料費や人件費、エネルギー費は上がっており、コスト増を商品の価格に転嫁していかないと、仕入れ先の経営も立ち行かなくなる。
同社は2022年に商品の値上げを行ったが、2023年秋に入ると販売が低迷。2023年12月以降から値下げを進めたところ、販売は回復に転じた。仕入れや生産工程の見直しなどで原価を抑えて利益を確保する取り組みを進めていたが、その後も原材料のほか、包装資材や輸送費も高騰。今年9月から10月にかけて、久世福商店、サンクゼール両ブランドで商品の値上げ(それぞれ8%、6%)に踏み切った。 ■値付けの精度向上に本腰
商品価格を柔軟に変更できるのはSPAならではだが、収益確保には高精度な価格設定が要求される。同社は近年の経験を踏まえ、10月にリサーチセンターを設置。どの程度の価格であれば値上げを受容できるか、ブランドのファンコミュニティーに参加する顧客の反応も参考に値付けしている。 久世社長は「コストダウンの努力は今後も続ける。これからは商品の付加価値を顧客にいかに伝えられるか、ブランディングが重要になる」と話す。久世福商店ブランドは今年で11年目。商品の訴求の仕方にばらつきが出てきており、ブランドとして一貫したメッセージを発信する方向に整えていく考えだ。
サンクゼールは2017年にアメリカに進出。和食材を輸出する一方、買収したオレゴン州の食品工場を使い、「ゆずみそドレッシング」など、現地に合わせた商品を開発・販売している。2023年にケチャップ、2024年にジャムを手がける食品メーカーの事業をM&Aで取得。当該商品の製造による自社工場の稼働率向上や互いの販路の活用というメリットがある。「アメリカでもこだわりの食品を作るメーカーが各地域にある。M&Aを活用しながら、ローカルの食文化を継承していきたい」(久世社長)。
上場は人材採用面でプラスになっているという。久世社長は「地方のいちばんの宝は企業。同じ志を持つ優秀な人が集まり、付加価値を生み出し続けていくことが大事」と強調し、働きやすいオープンな企業風土の醸成を目指している。
木皮 透庸 :東洋経済 記者