東京・墨田区で「赤ちゃんポスト」計画が進行中…国内1例目の「病院vs行政」から学ぶ"重大な争点"
親が育てられない子どもを匿名で預かる「赤ちゃんポスト」。国内では熊本市の慈恵病院が2007年に初めて設置し、東京・墨田区の病院でも設置に向けて準備が進んでいる。実現すれば病院での運用は国内2例目となるが、どんな課題があるのか。ノンフィクションライターの三宅玲子さんが取材した――。 【写真】2024年度内に赤ちゃんポストを設置予定の賛育会病院 ■墨田区の病院「24年度内に運用開始」 東京に赤ちゃんポストがつくられると時事通信が報じたのは2023年9月だった。それは錦糸町駅から北へ徒歩10分、墨田区にある民間総合病院・賛育会病院が赤ちゃんポストと内密出産(※)の受け入れを開始するという内容だった。 ※母親が病院の予め決められた職員にだけに身元を明かして出産することができる仕組み この第一報から1年が経った10月末、進捗を病院に確認したところ、「東京都、墨田区、警察、児童相談所、協力団体との協議が進んでいる。2024年度内の運用開始予定に変更はない」との回答を得た。 日本初の赤ちゃんポスト「こうのとりのゆりかご」(熊本市・慈恵病院、以下ゆりかご)には17年間で合計179人の赤ちゃんが預け入れられた。人口が集中する東京に開設されれば、預け入れられる数は格段に多いと予想される。 だが熊本では、運用をめぐって今も病院と行政が対立している。問題は「社会調査」だ。 赤ちゃんポストというと、育てられない事情のある人が匿名で赤ちゃんを預け入れることができる装置だと私たちは思っている。 しかし、実際には、赤ちゃんが預け入れられると、病院は児童相談所と警察に連絡し、児相は赤ちゃんを一時保護後、保護者を探す社会調査を行う。2023年3月31日時点では135件について身元が判明。赤ちゃんは親の暮らす地域の児童相談所に措置移管された(施設養育25、里親9、家庭32、特別養子縁組63)。 ※熊本市「こうのとりのゆりかご」第6期検証報告書26Pより ■「病院vs行政」は本来の目的を遠ざける 「匿名性」を譲ることはできないと主張する病院と、児童相談所運営指針に則って「社会調査」を実施するのは児童相談所の責任だとする行政とが対立し、攻防が続いてきた。そしてついに2024年6月には、病院が熊本市長宛に公開質問状を出す事態に発展した。 翻って東京。もし、運用の柱となる病院と行政の関係性がグラつくと、運用は立ちどころに行き詰まり、結果として、孤立した産婦と赤ちゃんの安全を守るという目的は遠ざかってしまうだろう。 本稿では先行する熊本で起きている問題を検証し、これから始まる東京の赤ちゃんポストの期待可能性を考えたい。