＜那須川天心vsジェルウィン・アシロ＞WBOアジアパシフィック王座を獲得した那須川（撮影・篠原岳夫）

　◇WBOアジア・パシフィック・バンタム級王座決定戦　同級1位 那須川天心（帝拳）　判定　同級2位 ジェルウィン・アシロ（フィリピン（2024年10月14日　東京・有明アリーナ） 　転向5戦目、ボクシングキャリアで初めて巻いたベルト。那須川は世界挑戦への第一歩を踏み出したにもかかわらず怒っていた。 　「俺の大事な顔を傷つけやがって！顔で売ってんのに！今まで50戦やって初めて傷ついた！」 　倒せなかった怒りではなかった。出てこない相手に苦戦しながら、右ジャブからリズムをつくりカウンターの左で応戦。9回には強烈な左ボディーで相手が体勢を崩し、ダウンの判定。最終10回には偶然のバッティングで左目上をカット。思わぬアクシデントに見舞われた。「ちょっと二重で見づらくなったけど、ボクサーだなあ、と。無事にアジアのベルトを巻くことができたし、2、3個新しい経験ができた」。難敵相手に初の10回戦を戦い抜き大差判定勝ち。怒りを忘れ、四方にベルトを掲げて喜んだ。 　7月の前戦では世界4位相手に何もさせずに3回TKOの完勝。それでもパンチのバリエーション、間合いの詰め方やフェイント、ステップ、全てを高め、ボクサー天心の完成形に近づけた。3連続KOは逃したが何度も相手をロープ際に追い詰め主導権を握った。 　表に出すことはなかったが、タイトル初挑戦の不安もあった。調整期間のスパーリング中にはジムの大先輩で元WBC世界バンタム級王者・山中慎介氏に助言を求めた。また幼なじみで、国内最速タイトル保持者でアマ13冠の堤駿斗にもタイトル戦を戦う教えを請い、10回戦を戦うペース配分も学んだ。 　今後、日本人王者が占めるバンタム級主要4団体への挑戦を改めて宣言し「来年中に必ず世界タイトルマッチ、どうですか皆さん。見たくないですか？」と高らかに宣言。その標的の一人で、リングサイドから観戦した同じキックボクシング出身の武居にも「勝ちましたよ、武居君」と勝利を報告した。 　ただ慢心はしていない。「今日の内容では（世界は）どうかなと思う」と獲得したベルトを返上し1、2戦こなしてから世界挑戦する意向。「会長のGOサインが出ればいつでもいける準備をしておきたい。それまで自分を高めていければ」。一戦ごとに成長を示し続ける神童。世界のベルトは確実に近づいている。　（伊東　慶久） 【天心に聞く】 　――初めて10ラウンド戦った試合内容について。 　「思ったよりも相手がうまくて、自分がやりたいことをやらせてくれなかった。スタミナ的には全く問題なかった」 　――9回にダウンを奪った場面、相手はスリップだと主張していたが。 　「腹にパンチ当たって吹っ飛んだからダウンじゃないですか」 　――初めて顔に傷をつくったことについて。 　「縫うの凄い嫌だなと思ったけど、テープで治ると聞いてよかったなと思った」 　――バンタム級の世界王者4人のうち誰と対戦したい？ 　「全員とやりたいんですよね。ベルト欲しいからやるのではなくて、強い人だからやりたい。昨日負けた拓真選手とも。（今後）どう組まれるかは自分の中でも楽しみ」 　――ニュースの扱いの大きさで大谷翔平を超えられる？ 　「政治的に無理でしょうね（笑い）。試合的にも、テレビ見てる人はKOが好きだから判定じゃ無理でしょう」 　▼WBOバンタム級世界王者・武居由樹　那須川選手の強さも改めて感じた。（対戦の）実現も近づいてきた。早めに準備しておこうと思っている。中谷選手は危ないパンチを当てるし、もらわない。勉強させてもらった。 　◇那須川　天心（なすかわ・てんしん）1998年（平10）8月18日生まれ、千葉県松戸市出身の26歳。5歳で極真空手を始め、小6で転向したキックボクシングではRISEでバンタム、フェザー級の2階級制覇など42戦全勝（28KO）。18年大みそかのエキシビションで元5階級制覇王者フロイド・メイウェザー（米国）に1回TKO負け。22年6月の「THE　MATCH」で元K―1王者の武尊に判定勝ち。23年4月のボクシングデビュー戦で6回判定勝ち。今年1月には3回終了TKO勝ちで転向後3戦目で初のKO勝ちを収めた。身長1メートル65の左ボクサーファイター。