ぜいたくカレーパン、まるで「肉料理」 ホテルニューオータニ総料理長 自慢の1品
連載《hotel TIPS》Vol.15
編集長がホテルのおいしいものや楽しみを探しに行く「hotel TIPS」。先日知人に教えてもらって以来、ずっと気になっていたパンを今回はいただくことにしました。それは、子供のころから大好きなカレーパン。といっても普通のレシピじゃありません。黒毛和牛入りという、なんともぜいたくな商品です。どんな驚きを体験できるのかと、胸躍らせてホテルニューオータニ(東京・千代田)の「パティスリーSATSUKI」に伺いました。 【1分半動画・写真はこちら】黒毛和牛の仕込みから、魅惑の揚げたてシーンまでチェック! 中島総料理長は何を語る?
■1つで大満足 圧巻の「質量」
パティスリーSATSUKIは厳選フルーツを使った「スーパースイーツシリーズ」など、1年を通じて話題に事欠かない逸品が並ぶペストリーブティックです。ならばカレーパンもさぞやゴージャスであろうと期待も高まります。 目に留まったのが、その名も「黒毛和牛銀座ビーフカレーパン」という迫力満点の一品。お値段も1620円とヘビー級です。 従来売っていたカレーパンを数段グレードアップして、2024年5月に登場したばかり。見た目はソフトボールほどもあり、幅14センチ、厚さは5センチ。トレーに乗せるとずしりと重さを感じます。実際に量ってみると200グラムありました。 深いきつね色をした紡錘形のパンにナイフを入れると、途端に食欲をそそるスパイシーな香りが漂います。切り口を見れば、今にもあふれ出さんばかりの牛肉の塊が。気押されそうになりながら、大きな1切れを頰張ってみます。すると、実に複雑な味わいのコンチェルトが堪能できるのです。 柔らかくほぐれていく和牛のお肉と、パンチの効いたなめらかなカレーを、甘みのあるパン生地がしっかりと受け止めます。具だくさんだけれど、口の中で素材が混然ととろけていくような感覚が、まさに上質な肉料理をほうふつとさせます。見た目の迫力と、豊かな味わいと、意外にも軽やかな後味の3幕構成に驚き、楽しむうちに、いつしか魅惑の塊は胃袋の中に消えてしまいました。
■ぜいたく食材、口どけにこだわり
「1食で完結する極上のカレーパンをつくりたかったんです」。総料理長の中島眞介さんはほほ笑みながら、黒毛和牛銀座ビーフカレーパンの由来と秘密を教えてくれました。「こだわったのは口どけ。ぜいたくな食材と作り方はホテルならではといえるでしょう」 具材は柔らかく脂が甘い黒毛和牛にこだわりました。ホテルニューオータニには食肉を専門に扱うブッチャーと呼ばれるスタッフがいて、中島さんの様々な要望に応えてくれます。このカレーパンにはマエバラ(ブリスケ)と呼ばれる、煮込み料理などに向く部位を使い、ブッチャーが20キロほどの塊肉を丁寧に下処理し、4センチ角程度に手切りしていきます。カットされた肉はレストランSATSUKIの厨房へと運ばれます。 その厨房ではレストランメニューである「銀座カレー」をベースに、パンの具材となるカレールーを仕込みます。味わいのポイントは、タマネギをねっとりと黒色に近くなるまで炒め続けて甘みとコクを引き出した「ブラックオニオン」と、クミンやコリアンダーなどのスパイスです。肉のうまみが強いので、カレーもより複雑でスパイシーな味わいに調味してバランスを取らなければいけないのです。肉はカレー粉をまぶしてフライパンでさっと焼き、約1時間かけて特別なブイヨンで煮込んだ後、カレーとともにベーカリー厨房へと運ばれていきます。 ベーカリー厨房ではパン生地の中にカレーと口あたりよくカットした牛肉を詰め込んでいきます。牛肉、カレーの量はそれぞれ50グラムと圧巻のボリューム。アクセントとして一緒に入れるのが、刻んだ福神漬けとコルニション(小キュウリのピクルス)です。パン粉を付けたらいったん発酵させて、その後に一つ一つ、油に投入していきます。