社員教育プログラムの数は少ないほどよい
■「何でもかんでも」を避けるには 関連性が高く、選別されていて、見つけやすい学習コンテンツを従業員に提供するために、次の2つの戦略を試してほしい。 ■学習が非効率的になる理由を理解する たいていの社員教育・能力開発(L&D)のプロフェッショナルは、「プログラムがこんなふうに終わるなんて信じられない」といった言葉を発した経験がある。彼らは、従業員に何でもかんでも与えようとしたわけではない。では、なぜそうした結果になったのか。ほとんどの場合、これは無意識バイアスや、もっともな善意の動機による結果だ。 ・リスク回避バイアス:人間にはミスや損失を避けたいという欲求が備わっており、それが「何一つ」除外したくないという気持ちにつながる。失敗や損失は危険で、間違っていることのように思えるからだ。 ・「自分が見たものがすべて」というバイアス:ダニエル・カーネマンが著書Thinking Fast and Slow(邦訳『ファスト&スロー』)で述べているように、自分以外の視点で物を見るのは難しい。その結果、人は「すべて」が自分の優先事項だと考え、できる限り優先的なトピックや内容を盛り込める機会に飛びつく。それによって、誰もが、常に、すべてを含めるようになる。 ・非最適な包摂性:すべてのグループがすべてのことに意思決定権を持っていると、アイデアの寄せ集めになりかねない。他の視点を求めることは必要不可欠で、有益だが、いつ「ノー」と言うべきかについて厳しい判断を下すための、一人、あるいは少数の決定者が必要だ。 ・従業員が必要とし、望んでいるものに関する理解不足:従業員が自分にとって役立つものが何かを明確に理解していない、つまり提供する学習コンテンツが彼らの抱えているペインポイント(悩みの種)に対処できていない場合、従業員は学習に取り組もうとはしない。とはいえ、人々は自分が本当に必要としているものを把握していないことが多く、学習を提供する側がニーズを理解し、魅力的なコンテンツをつくるには、時間と労力、専門知識が必要だ。 ・ビジネスリーダーの要望に従う:最後になるが、これは非常によくあることだ。リーダーが客観的な根拠に基づかず、直感的に「これはよいアイデアだ」と思ったために、次のプログラムであれもこれも取り上げたくなると、不必要なコンテンツが生まれることが非常に多い。 L&Dのプロフェッショナルの多くは、上記の動機付けを見直して頷いていることだろう。それぞれの動機に対処するには、ユニークなスキルセットが必要であり、短時間で簡単にできることはほとんどない。行動変容のダイナミクスと関連するタイムラインを理解しなければならない。忍耐と、押し返して物事を除外する自信が必要だ。やるべきことが多くあって、自由な時間がほとんどない状況では、問題解決の最適な方法を一つ見つけるよりも、いろいろ試して何かがうまくいくのを期待するほうが簡単である。 ■インパクトを指針にする 一つのシンプルなルールとわずかに重要な質問があれば、提供する学習に対する認識を、圧倒するほど膨大で無関係なものから、慎重に選別されていて、関連性のある、個人的なものへと変えることができる。 指針にしてほしいのは、以下のルールだ。学習プログラムに含むものはすべて、自分たちが望む「一つ」のインパクトを達成することを目的とする。10でもなく、5でもなく、3でもない。「一つ」のインパクトだけに集中するのだ。 そして、すべてのコンテンツとデザインの決定を、以下の質問を通して継続的にフィルタリングする。 1. このコンテンツにインパクトがあるという証拠は何か。それが「実際に効果がある」と理解しているか。それを裏づける研究やデータはあるのか。このコンテンツはどの専門家によるもので、その人は信頼できるか。 2. 問題に直接対処できるものか。このコンテンツやリソースを含めなければ、インパクトが得られない可能性が高いか。 3. それは従業員が求めているものか。従業員のニーズに応えていると感じられるものか。彼らは会話のガイド、チーム体験、スキルアップのワークショップ、あるいはヒントを紹介する短い動画を望んでいるだろうか。従業員が望む方法でガイダンスを提供することは、コンテンツを正しいものにすることと同じくらい重要だ。 現実的な観点から言えば、多くのものではなく3つだけ提供したほうがよい。一つであればなおよい。これは、学習プログラムのオプションと、それぞれのコンテンツ、それに付随するリソースにも当てはまる。 * * * 学習の好みの微妙な差異を説明するために、世代間の違いを指摘する人は多い。実際のところ、私たちは皆、限られた時間しかなく、効率的で、選別され、思慮深く組み立てられた学習プログラムと関連するリソースを求めている。何でもかんでも投入するのではなく、科学と、学習プログラムに関して従業員が知っていること、期待していることを活かそう。「少ないほどよい」ということだ。 編集部注:本稿に示した見解は、筆者らのものであり、アーンスト・アンド・ヤング(EY)およびEYのグローバル組織の他のメンバーの見解を必ずしも反映したものではない。 "When Designing Employee Learning Programs, Less Is More," HBR.org, December 06, 2023.
ハイディ・グラント,タル・ゴールドハマー