菜々緒”鷹野”に救われた…ドラマ『無能の鷹』が何度でも見返したい名作となったワケ。徹底考察&評価
共感しやすい登場人物たち
登場人物の心境に共感しやすいところも反響を集めた要因である。例えば、第4話では、要領がよくドライな性格をしている雉谷耕太(工藤阿須加)が、同僚たちからサプライズで誕生日を祝われる。 会社へのエンゲージメント(貢献意欲)が急激に高まっていく中、朱雀の誕生日会の幹事を押し付けられそうになると途端に豹変。「俺、別に好きじゃないわ、会社もみんなも」と、会社や同僚とは距離を保ったほうが賢明であることを思い出す。 お仕事ドラマといえば、『下町ロケット』のように社内一丸となって困難に立ち向かう様子が理想像として描かれがち。しかし、そんな熱い展開がいざ自分事に置き換わると、ただただしんどい…。情に流されず、会社や同僚とは業務に支障をきたさないレベルで、付かず離れずの距離感を重視する雉谷には共感しかない。 また、第5話での一幕で、昭和堅気の朱雀が改心して、部下たちに「みんな、いつもごめんな」「一生懸命働いてくれてありがとう」と伝えるシーン。 その後、「なぜかわからないけど、謝れない部長が初めてみんなに謝った」「みんな一瞬感動したけど、よく考えたら『こんなの、普通のことだな』とすぐに落ち着いた」という鶸田の裏アカ(匿名で使用するアカウント)の投稿を鷹野が読み上げる。 この世には、「感謝や謝罪を口にすると死んでしまうのか?」と思わせる人間は珍しくない。日頃からそんな性格の人間の口から「ありがとう」「ごめん」が出れば、思わず感動しそうになるのも頷ける。 とはいえ、本来であればそれはできて当たり前。過度にドラマティックにせず、スッと現実に引き戻してくれる鶸田の投稿には説得力と安心感がある。 このように、いろんなスタンスで働くひとの心境あるあるネタが豊富で、思わずクスッとするシーン満載なところもお仕事ドラマとして秀逸だった。
『無能の鷹』の真骨頂とは
『無能の鷹』の真骨頂といえば、やはり鷹野と社外の人間の商談シーンだろう。鷹野が営業に出れば、必ずアンジャッシュのようなすれ違いコントが繰り広げられる。両者の思惑の食い違いによるトラブルや、それがふいに解決する様子はコミカルながらも実にリアル。 鷹野がいかに頓珍漢なことを言っても、取引相手は、鷹野が持つ有能感に圧倒され、先入観から都合の良い深読みをして、契約が結ばれる。 この傍から見ての“思考の噛み合わなさ”が笑えるのだ。とはいえ、現実でも、元をたどれば言葉足らずによるすれ違いが、最終的に大事に発展するケースは少なくない。『無能の鷹』ではそれらが誇張して、かつポジティブに描かれているが、面白さを覚えるのと同時に、ふと自身のコミュニケーション不足で諍いを引き起こした過去を思い出して反省することもあった。 社会人のリアルをこれでもかと詰め込みながらも、決して重くならずに、苦しむ人の肩の荷をそっと軽くしてくれる『無能の鷹』。あっという間に全8回が過ぎてしまったが、仕事に悩んだ際には、何度でも見返したくなるお仕事ドラマだった。 【著者プロフィール:望月悠木】 フリーライター。主に政治経済、社会問題、サブカルチャーに関する記事の執筆を手がけています。今知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けています。(旧Twitter):@mochizukiyuuki
望月悠木