大の里、横綱目指す決意 大関昇進、父の思い胸に
●「他に類を見ないお相撲さんに」 「他に類を見ない、もうこのような人は現れないというくらいのお相撲さんになりたい」。昭和以降で最速の大関昇進が決まった25日、大の里は昇進伝達式の口上に、さらなる飛躍と頂点を目指す決意を込めた。「唯一無二の存在になってほしい」という父・中村知幸さんの願いを口にして、不退転の覚悟を示した。師匠の二所ノ関親方(元横綱稀勢の里)以来となる日本出身の横綱に向けた歩みが始まった。 「唯一無二の力士を目指し…」。大の里が口上を述べると、目の前で見守っていた知幸さんの目が潤んだ。「唯一無二」は大の里が小さい頃から、知幸さんがよく口にしていた言葉だった。 事前に口上の中身を知らされていなかったという知幸さん。伝達式が終わると、「目から汗が出てきた」とおどけながら「まさかこんな日がくるなんて。家族思いな息子ですね」とかみしめた。 「唯一無二」の片鱗(へんりん)は既に見え始めている。史上最速で幕内優勝を飾り、新入幕から大関昇進までに要した時間も昭和の大横綱・大鵬を上回った。新入幕から5場所連続の三賞受賞は史上初だ。 二所ノ関親方が「スタイルの似た力士が、なかなか思い浮かばない」と話すように、持ち前の馬力で相手を一蹴する豪快な取り口も大の里ならでは。親方は「新しい相撲で常識を崩していってほしい」とさらなる躍進を願う。 稀勢の里が2019年初場所限りで引退した後、5年以上にわたって不在となっている「国内出身の横綱」にも期待が高まる。 横綱昇進を判断する横綱審議委員会の山内昌之委員長(東大名誉教授)は、秋場所後の定例会合で「千秋楽の1敗は惜しかった。九州場所は『惜しかった』が起きないようにしてほしい」と話した。優勝力士への注文は異例で、横綱への期待の裏返しとも取れる発言だった。 一人横綱の照ノ富士はけがが多い。今年は5場所のうち2場所しか皆勤がなく、日本相撲協会内には横綱が途絶えることへの危惧もある。 そんな中、彗星(すいせい)のごとく現れた大の里。伝達式を終えると、早くも横綱昇進時の伝達式を見据え、こう語った。「もう一回、伝達式ができるチャンスがある。今日やってみて、もう一回やりたくなった」 息子の意気込みを父も理解している。知幸さんは「口上を聞いて今までのことが思い浮かんだが、目指すところはもう一個ある。その時に全部のことを思い出したい」と語った。過去の歩みを振り返るのは頂点をつかんでから。「父の里」は、その時が来るのを楽しみに待っている。